自分自身に思いやりを向ける「セルフ・コンパッション」が新しいメンタルアプローチとして注目を浴びている。集団認知行動療法の講師であり『思いやりは武器になる』(小社刊)を上梓した石上友梨さんに、セルフ・コンパッションの日常での取り入れ方、ビジネスとの関係について話を聞いた。

「思いやり」は武器になる/石上友梨

“思いやりのあるキャラクター”を作り出せ

ーー石上先生は「思いやり」を認知行動療法に取り入れているとのことですが、具体的にはどのようなやり方をしているのでしょうか?

よくやるのは、“思いやりのあるキャラクター”を作り出してもらうことです。ムーミンが好きな人であれば「このつらい場面で、ムーミンが思いやりのある言葉をかけてくれるとしたらどう?」といった投げかけをします。

オリジナルで作ることも多いですが、既存のキャラクターのいいところは、グッズなどがあるので持ち歩ける。これが“思いやりのあるアイテム”になるんです。

ーーなるほど、たとえばプーさんが好きな方であればプーさんのアイテムでもいいと。

はい。アイテムは、患者さんが自然と揃えるようになる感じがします。カウンセリングで、プーさんからの思いやりの言葉を考えているワークをやっていると、自然と患者さんがプーさんのぬいぐるみを持ち歩き始めたり、いつの間にか携帯の待ち受けにしたりしているんです。これは非常に皆さんすんなりと取り入れてくれます。

カウンセリングで、紙に自分の思考を書き出してもらうということもやりますが、家に帰ると続かないことも多いんです。でもキャラクターからのセリフを思い出すだけであれば、場所も選ばず手軽にできる。好きなものだからイメージしやすいし、続きやすいのかなと。

ーーお話を聞いてセルフ・コンパッションのハードルがすごく下がりました。これは誰でもできそうですね。

私はセルフ・コンパッションのエッセンスを取り出して、使いやすいようにアレンジしています。

他人との小さな共通点を探す

ーー最近だとコロナ禍で、自分に自信が持てなくなったという人も多いように思います。たとえばリモートワークで、自分の実力が可視化されることで「俺なんて大したことないな」と思ってしまうような。

リモートワークでは顔が見えない分、他人の気持ちをネガティブに想像してしまいがちです。また何気ないメールや電話の一言に、過剰に傷ついてしまうこともあるかもしれません。

私がカウンセリングでよくやっているのが、言葉を外在化することです。これはセルフ・コンパッションというより、認知行動療法のやり方ですが。誰かの言葉に傷ついたとして、その言葉の主を実際の人物から架空のキャラクターに変える。

たとえば上司のあの言葉は、実はディズニーの悪役が言っていたんだと。そうするとちょっと笑えてきたり「所詮は他人の言った言葉なんて」と気にせず生きられるようになります。

ーーなるほど。あとは他人に対して、なかなか余裕が持てなくなっている人も増えているように思います。

それに対しては、セルフ・コンパッションの基本概念である“人類の共通性”を意識してもらえるとよいと思います。

他人との違いを意識してしまうと、自分はだめだと思ったり。逆に、自分はすごいと見下す態度をとってしまったり。違いというものは探せばいくらでも見つかるもの。そうではなく共通点を探っていくのです。

▲他人との小さな共通点を探す イメージ:PIXTA

すごく身近な例で言うと、難しいテストを受けた後に、みんなの「今回のテスト、分からなかったね」という声を聞くとすごく安心しますよね。そういう小さな共通性を探していくことです。