自分自身に思いやりを向ける「セルフ・コンパッション」が新しいメンタルアプローチとして注目を浴びている。集団認知行動療法の講師であり『思いやりは武器になる』(小社刊)を上梓した石上友梨さんに、セルフ・コンパッションとの出会いを聞いた。
「幸せになれますように」が言えなかった
ーーまずは先生が、セルフ・コンパッションに触れたキッカケを教えていただけますか?
もともとマインドフルネスに取り組んでいたのですが、その一環で“慈悲の瞑想”というものをしていたんです。
私は幸せでありますように
私の悩み苦しみがなくなりますように
私の願いごとが叶えられますように
私に悟りの光が現れますように
私は幸せでありますように私の親しい生命が幸せでありますように
私の親しい生命の悩み苦しみがなくなりますように
私の親しい生命の願いごとが叶えられますように
私の親しい生命に悟りの光が現れますように
私の親しい生命が幸せでありますように生きとし生けるものが幸せでありますように
生きとし生けるものの悩み苦しみがなくなりますように
生きとし生けるものの願いごとが叶えられますように
生きとし生けるものに悟りの光が現れますように
生きとし生けるものが幸せでありますように
[出典:日本テーラワーダ仏教協会HPより]
“慈悲の瞑想”では、このような言葉を唱えるのですが、どうしても引っかかる箇所がありました。それが「幸せになれますように」というフレーズで、この言葉がどうしても言えなかったんです。恥ずかしさというより言えないという感覚で「自分なんかが幸せになってはいけない」という潜在意識があったんだと思います。
私はカウンセラーですが、実は自分のことは客観的に見れていなかったんです。そこで初めて自己肯定感の低さに気づかされました。原因はなんだろうと、書籍などを読んで調べていくうち「セルフ・コンパッション」に出会い、この自己肯定感の低さは、自分自身に思いやりが向けられていなかったからなんだと腑に落ちました。
また、日々カウンセリングをする中で、自己肯定感が低く、自分を思いやれていない患者さんを多く見てきたことともつながりました。
ーー実際にセルフ・コンパッションを取り入れて、先生ご自身はどんな変化を感じましたか?
自分自身にどんな言葉をかけているのか観察する習慣付けをしていたら、ある日、家の鏡の前で「自分は幸せになれないんだ」とつぶやいていたんです。それに気づき、自分自身恐ろしくなりましたね。常日頃からそういった言葉を投げかけていたら幸せになれるはずがない。幸せになれないと。思いやりを学んでからハッと気づきました。
鏡の前のつぶやきに気づいてからは、自分に対するネガティブな言葉は少なくなり、呪縛から解けた感じがしました(笑)。それからは、認知行動療法のカウンセリングにも思いやりの要素を加えて、自分だけじゃなく、患者さんにも応用するようになりました。