自分にも相手にも「思いやり」をもつ

ーーそれは自分も学生時代に経験があるので、よくわかります(笑)。最後にセルフ・コンパッションはビジネスシーンでも有効なのでしょうか? アメリカの企業で、この概念が取り入れられていると聞きました。

はい、LinkedInはがっつり企業理念にしていますし、Googleは研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ」の考案者が、チームビルディングの必須要素として取り入れています。残念ながら日本企業では、まだそれほど浸透はしていません。

ーー日本の企業には思いやりが足りない。

今の日本企業を見ていると、効率化を求めるあまりに、本来の思いやりの部分がシステム化されてしまったように思います。例を上げるならば、1on1ミーティングなどもそうです。部下のことを見ていて心配だから声をかけて面談するのではなく、半年に1回やれと会社から言われているからやる、といったマインドが多いように見受けられます。

ーー形ばかりの思いやりですね。では本当の思いやりとは。

まず、自分の気持ちや部下の気持ちに気づいて、それを受け止めること。そこが意識できたら次のステップで、相手にとって必要かつ思いやりのある言葉をかけるなど行動を起こすことです。行動する前に、まず自他の気持ちを意識するだけでもだいぶ違います。

▲自分にも部下にも「思いやり」をもつ イメージ:PIXTA

例えば苦手な部下がいたとします。でも「この部下を嫌ってはいけない」と気持ちを抑えてしまうと、かえって態度に出てしまったりする。なぜこういう気持ちを持ってしまうのか? ということに客観的に注意を向け、自分の感情を受け止めたうえで、今の自分や部下にとって必要な行動はなんだろうと考えれば、部下に対する接し方も変わってくる。

自分の接し方が変われば、部下の態度も変わってくる。それを見て、思いやりのある言葉をかけてみようという気持ちになる。そんな循環でしょうか?

ーーまず、ネガティブな感情を持っていることを認めた方がいいのですね。

はい、全部認めることが大事です。そして、そう思ってしまうのはなぜだろう? と考えてみるといいです。その部下や上司が苦手なのは、自分があまり見たくないものを持っているから、という理由もあったりするんです。自分と似た弱点であったりとか。

そして自分のいい面と悪い面も全て認める。そしてまず自分に思いやりを持ってみる。そこから自然に他人への思いやりにつながっていくということもあります。もちろん、どうしても自分に思いやりを持ちづらい方もいるので、その場合はまず他人に思いやりを向けるところからやってもいいと思います。自分への思いやりと他人への思いやりはつながっているので。

ーー小さなマインドチェンジを繰り返すことが重要なのですね。

マインドフルネスの研究ですが、脳の構造が変わるためには8週間ぐらいはかかるという研究結果も出ています。マインドフルネスをすでに取り入れている方であれば、セルフ・コンパッションも取り入れやすいかなと思います。