香港警察に対する不信は“不思議な自殺”の問題だけでなく、逮捕されたデモ参加者たちへの虐待の噂も関係しています。特に性虐待問題です。

香港には深圳に近い新屋嶺という場所に拘置所がありますが、そこで一部の逮捕者が暴行されたり、裸で縛られるなどの虐待を受けたという告発がありました。ある少女は複数の警官に強姦されて、妊娠したとの報道もありました。

KBSが報じた匿名の警察内部告発では、この噂を裏付けるように拘留中のデモ隊の少年少女に対するレイプが起きている、という証言もありました。レイプを働いた警官は少なくとも4人いて、それは署内でも把握され、医学的証拠があげられているものに限ってなので、本当はもっと多いはずだということです。

拘置所内で起きている警察によるデモ参加者のレイプや性虐待についての告発を、実名で最初に行ったのは香港中文大学逸夫書院の女子学生のソニアさんです。

デモに参加していないのに逮捕されセクハラ被害

▲インタビューに答えるソニアさん 著者所有写真

彼女は10月10日夜、中文大学で開催された学長と学生の公開対話で、泣きながら「学長先生、あなたは知らないでしょうけど、私たちは警察に携帯電話も取り上げられ、汚い言葉でなじられたんですよ。スピードドラゴン(対暴動用特別警察)に殴られたまま、怪我をして放置されていた仲間もいたんですよ」と訴え、マスクを外して、顔をメディアにさらしました。

そして、自分が拘置所で受けたセクハラ体験を訴えたのです。私はソニアさんに直接インタビューする機会があり、彼女がなぜ実名で告発したのかを聞きました。

以下、簡単にそのときのやり取りを紹介しましょう。

福島 :ソニアさん、あなたが警察に逮捕された8月31日に経験したことを教えてください。

ソニア:8月31日の夜11時頃、私は地下鉄に乗っていました。太子駅でアナウンスがあり、乗客は全員列車を降りるようにと言われました。それに従ってプラットフォームに降りると、スピードドラゴンが乗り込んできました。

私は促されてエスカレーターの方に歩いていきました。エスカレーターを上がると、防暴隊が待ち受けていて、私は何もしていないのに、防暴隊に逮捕されました。腕を結束バンドで後ろ手に結ばれて、なんの説明をする間もなくひざまずかされました。他の乗客も逮捕されました。

福島 :逮捕されたときに暴行は?

ソニア:警察が殴ろうとしてきましたが、一緒に出てきた他の乗客が私をかばってくれました。ひざまずいた姿勢のままで2時間ぐらい待たされました。

福島 :あなたはデモ参加者だったの?

ソニア:違うわ。その時間、たまたま地下鉄に乗り合わせただけよ。

福島 :逮捕される理由は聞いた?

ソニア:“違法集会”容疑だと言われたけれど、身に覚えはなかった。でも説明することもできませんでした。何か言えば、殴られることがわかったから。私は喘息の持病があるのだけど、スピードドラゴンが乗客の一人の頭を警棒で殴るのを見て、恐怖で発作が出ました。

それで、とりあえずマーガレット病院に運ばれ、それで警察の監視のもと治療を受けて、4~5時間ほど様子をみたあと、葵涌警察署に連行されました。このとき、その場に居合わせた弁護士が、何か助けが必要なら連絡してくれるように、と言いました。

▲対暴動用特別警察「スピードドラゴン」に捕らえられるデモ隊 出典:ウィキメディア・コモンズ

「学生会副会長」という肩書を勝手に付けられていた

ソニア:病院には逮捕者が(逮捕時に暴力を受けて)他にも来ていたので、弁護士がいたのだと思います。

問題は警察署で起きました。私の身に起きたことはセクハラだと思います。取調べのとき一人の男性警官が私の胸を強く叩きました。また女性警官は私の体を金属探知機で調べるとき、男性警官も見ているなかで、私のシャツをめくって、下着のなかに指を入れて体を調べました。私はTシャツとホットパンツ姿でした(性器は触られませんでした)。

私はトイレに行きたくなり、そう訴えましたが、女性警官はトイレの戸を閉めることを許しませんでした。しかも、用を足すときも、正面から凝視していました。性器を見られたと思います。トイレの外には男性警官もいましたし、監視カメラもついてました。

私はレベル2の身体検査を受けたのですが、これは違法だと思いました。警察の身体検査は容疑の重さに合わせてレベルがあるのですが、違法集会容疑の身体検査はレベル1のはずです。レベル1は服の上からの検査だけです。

レベル2の検査は服を一部脱がせて下着の中までチェックしますが、それは本来、薬物犯罪など、下着の中に証拠物を隠すような犯罪容疑者に適応されるものです。なので、なぜ私の下着の中まで調べる必要があったのかわかりません。恥ずかしく怖く、そして腹立たしかった。

逮捕されて9時間してから、病院で会った弁護士が来てくれました。弁護士は忙しく、接見時間が5分ぐらいしかなくて、セクハラのことは何も言えなかった。弁護士から「黙秘しろ」とだけ言われました。

拘置所でしばらく寝ていました。うとうととしていたら、女性警官にたたき起こされました。まだ暗い時間でした。私は他の逮捕者とともにバスに乗せられました。13人の男性、私を含めて女性は4人。ほとんどが大学生でした。新屋嶺拘置所に連れていかれることになりました。逮捕者1人につき2人以上の警官の見張りがついていました。

バスのなかで「弁護士に連絡してはならない」と告げられました。私たちは手荷物は携帯電話を含めて1つに入れて持つように命じられていたので、誰にも連絡できない状態でした。

新屋嶺に着いたのは2日の午前2時ごろでした。新屋嶺に入るとき、名簿を見せられて、自分の名前を指さすように言われました。その名簿を見ると、私の名前の横に★がついていました。さらに中文大学学生会副会長という肩書がついていました。私は中文大学学生会副会長なんてやったことはありません(選挙には出ましたが落選しました)。

別の人の名前の横には★が5つあり、肩書にソーシャルワーカーと書いてありました。このとき、この逮捕は公平な現行犯逮捕ではなく、仕事や肩書によってこじつけ的に逮捕したのではないか、と疑いました。でも私の場合は、学生会副会長というのも誤解です。

新屋嶺でもレベル2の身体検査を受けることになりました。ですが、先ほどの名簿にあったソーシャルワーカー(女性)が、レベル2の身体検査には法的根拠がないと抵抗しました。この抵抗によって身体検査がレベル1に下がりました。だとすれば、警察署のレベル2の身体検査はいったいなんだったのかと思いました。

女性の逮捕者はプリズンCと呼ばれる部屋に入れられ、身体検査を受けました。最初はドアが開けっぱなしで、男性警官が中をのぞけるようなっていました。それでやはり、ソーシャルワーカーが抗議したので、ドアが閉められることになりました。私を含めて女性拘留者は7人でした。

新屋嶺に着いたのは2日の午前4時ごろ、そして午前7時に釈放されることになりました。拘留期限の48時間がきたからでした。私が違法集会したという証拠は何もなかった。ただ、私が学生会副会長(誤認)だと思い込んで、嫌がらせをしただけだったのでしょう。