私は香港のデモに対する警察の暴力を目の当たりにして、かなり香港のデモ隊に対して同情的でしたし、香港の勇武派の若者が過激化するのもいたしかたない面がある、と思っていました。
ですが、日本のテレビメディアでは、有識者のコメンテーターが香港の若者の方が悪い、というニュアンスで批判することも多いのでした。警察が高校生の胸を実弾で撃ったことについても「警察も怖かったに違いない」「正当防衛だろう」「日本の警察も同じことをする」というコメントが出ていました。
香港の若者が、香港市民の迷惑を顧みずに暴れている、という見方をする人もいました。ですが、これはかなり香港の世論とかけ離れていると思います。
2019年10月初旬に香港を訪れたとき、香港自決を掲げる若い政党・香港衆志(デモシスト)常務委員で、雨傘運動のとき学民思潮のスポークスパーソンとして活動し「雨傘運動の女神」と呼ばれた周庭氏にインタビューすることができました。
警察側はデモ隊を殺すつもりで暴力を振るっている
彼女は1996年生まれで、まだ大学生ですが、非常に聡明な人で、雨傘運動以来の知名度と堪能な日本語や英語で、日本や英米などの海外向けに、香港の若者の代弁者として発信し続けていました。
6月21日の警察本部包囲デモに関与した疑いで8月30日に逮捕、起訴されましたが、夜間外出禁止などの条件をのんで保釈され、昼間の時間なら自由に外出できるということで、インタビューに応じてもらったのです。
彼女自身は平和デモ派ですが、勇武派の立場も理解した彼女の発言は、たぶん香港デモの実相がよく分かり、私が言葉を尽くすよりも、今の香港人の本音が分かると思うので、以下、そのやりとりをまとめて紹介しましょう。
福島:雨傘運動のころから存じあげていますが、そのころから日本語が大変お上手でしたが、さらにうまくなりましたね。このまま日本語でインタビューしていいですか?
周庭:はい。日本語はアニメやJ−popを通しての独学なんですが、雨傘運動から日本のメディアが香港に注目してくれて、日本語メディアで取材を受けることで、ずいぶん練習機会を与えてもらいました。
福島:香港デモは6月9日の103万人デモからいろんなことが起きました。10月1日のデモでは、警察の銃弾で青年が胸を撃たれる事件が発生するなど激しくなっています。これまでを振り返ってみて、何をお感じになっていますか?
周庭:このデモは、確かに逃亡犯条例改正問題から始まったのですが、6月12日以降、警察の権力乱用について香港政府が何も批判しないということに怒りを覚え、5つの要求(五大訴求)を打ち出すようになりました。もちろん条例改正案撤廃は重要ですが、警察の暴力、警察の行為に対して外部調査委員会を設立し、本当の民主主義を実現するために普通選挙を行うことが、より重要だと考えるようになりました。
10月1日は、中国にとっては国慶節ですが、私たちはお祝いする気持ちにはなりません。香港人を含めてたくさんの人が中国に苦しめられていることを知っているからです。中国には報道統制があります。中国の人たちには分からないかもしれませんが、国内でも、多くのウイグルやチベットの人たち、信仰を持つ人たちが弾圧されています。
ですから、10月1日のデモの目標は、五大訴求だけでなく、中国政府の政治的弾圧、暴力的弾圧に対して反対するという気持ちを持って、たくさんの市民が参加しました。
この日のデモで、18歳の男子高校生が左胸を警察の銃弾で撃たれました。警察が実弾を使ったのは初めてではないんですけれど、デモの参加者の心臓を狙って実弾を撃ったのは初めてでした。警察発表は噓ばかりです。記者会見では「左肩を撃った」「正当防衛だ」とか発表していますが、明らかに心臓を狙って撃っています。殺すつもりで撃ったのだと思います。
警察はどんどんコントロールできない状況になっています。警察の権力乱用は今回だけでなく、過去3カ月間、たくさんありました。例えば逮捕された人が警察に虐待されたり、セクハラされたり、殴られたり。そういう証言もたくさんあります。警察はやりたい放題です。