本来は行楽の秋ですが今年はコロナ禍。どこかへ行きたいけれど、泊まりがけで出かけるのはちょっと……。かといって、家でマッタリするのもなんだかもったいない。そんなとき、京阪神から半日で行って帰ってこられる、近場でおもしろそうなスポットをご紹介します。

※本記事は、吉田友和:​著『京阪神発 半日旅』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

美山かやぶきの里(京都)で日本の原風景に出会う

半日旅のときは大抵は電車移動なのだが、この日は珍しく自宅からマイカーで出発した。家族旅行である。

仁和寺の前を通り過ぎ、国道162号線に入った辺りから車窓の風景がドラスティックに変わった。建物などの人工物が減り、代わりに生い茂る樹木の緑色が存在感を強める。スマホが途中圏外のところもあった。都市から山里へ――京都市内を出て北上するコースは初めてかもしれない。

「京都にもこんなところがあるんだねえ……」

ハンドルを握りながら僕がつぶやくと、助手席の妻が目を細めた。京都出身ながら、京都市ではなく長岡京市生まれの彼女にとっては、どこか懐かしさを覚える風景なのかもしれない。京都といっても意外と広く、多様なのだなあと思わされる。

今回目指したのは南丹(なんたん)市である。長岡京市など比較にならないほど不便な場所にある。電車が走っていないから、車で向かったのだ。

時速40キロ規制の田舎道をのんびり走り、いよいよ目的地の美山町へ入った。

この町には数多くのかやぶき民家が残る。中でも有名なのが北集落だ。50戸のうち39戸が、かやぶきの屋根で国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。古き良きニッポンを求めて「かやぶきの里」へやってきたわけだ。

お目当ての集落は、走行する車内からでもすぐにそれと分かった。なだらかな山並みをバックに古民家がぎゅっと密集している。『まんが日本昔ばなし』に出てきそうな風景を目にして、到着早々タイムスリップしたかのような気分になった。

▲山里らしい自然に心癒やされ、かやぶき屋根の建物に好奇心を満たされる

車を停め、集落へ突入する。集落の入口にオールドスタイルな筒型のポストが立っており、いきなりなんだかとても絵になる。とりあえずここで記念写真をパチリ。小径をそぞろ歩いているうちに心が浮ついてきた。

水田には紫色をしたレンゲの花が咲き乱れており、流れる水は透き通っている。上空にはトンビが飛び回り、そこかしこからカエルがゲロゲロ鳴く声が聞こえてくるのもまたいい。かやぶき屋根の家々が物珍しいことに加え、里山の風景自体が美しくて心癒やされるのだった。

同じかやぶきの民家でも、建物によって細かなつくりが違うから飽きない。よく見ると五右衛門風呂が置いてある家なんかもあって、そういう些細な発見が楽しい。

庭に大きな葦が植わっている家もあった。関東では「あし」と呼ぶが、関西では「よし」というのだと聞いた。「悪し」だと縁起が悪いから「良し」としたのだとか。

▲民家の前に自生していた背の高い葦。さりげない存在だが、素朴な風景に似合う