日銀の目的はゼロ%金利維持のため
パウエル議長の「無制限の国債購入」には、トランプ政権が景気の落ち込みを最小限にし、さらに経済のV字型回復を目指して、大規模な財政出動を行う。その際、無制限にまで増発されるかもしれない国債を、FRBが市場から買い上げて国債相場を安定させる用意がある、というニュアンスがこめられています。
一方、黒田総裁は当日の記者会見で質問を受けて「長期国債の金利をゼロ%程度で安定させるために、必要なだけいくらでも買う」と追加で説明していました。ようするに、国債ゼロ金利を維持するための「無制限の国債購入」なのです。
日本の場合、銀行や生保など金融機関の国債需要が大きいので、日銀が積極的に国債を購入しなくてもゼロ%金利を維持できます。
国債購入のターゲットがゼロ%金利維持では、アメリカのようなスケールの大きい金融緩和は期待できず、これまで通りの戦力の逐次投入の域を出ません。戦力を小出しにするようなやり方では、やはりインパクトに欠け、メッセージ性も弱くなります。
米欧の指導者たちが、第二次世界大戦後最悪と恐れるコロナ・ショックについて、日本だけが財務省や日銀という組織の論理に振り回され、国家経済の命運を左右する財政・金融政策を決めています。
これでは、平時の経済政策をわずかに拡げただけで、効果に乏しいカネの使い方しかできません。こんな調子では、日本だけがコロナ・ショックによる不況から脱出できなくなる恐れあります。
根本的な問題として日本に欠けているのは、社会や経済の危機的な局面の際には、財政と金融の両輪を組み合わせて、力強く回転させるという政治サイドの決意です。
それは今回のコロナ・ショックに限った話ではありません。リーマン・ショックの時もそうでした。世界経済が打撃を受け、各国がそこから財政・金融の拡大によってV字回復(あるいはそれに近い回復)を実現していくなか、日本だけがその波に乗り遅れ、経済停滞の一途を辿っているのです。
長年の景気低迷で「L字」の日本経済
「V字」ではなく、経済が落ち込んだまま横ばいで上がらない「L字」になってしまっています。コロナ・ショックでも同じ失敗をすれば、今度はL字どころではすまないかもしれません。
景気は“気”ですから、景気を回復させるには、長年の景気低迷とコロナ・ショックで落ち込んだ国民の“気分”も、回復させる必要があります。
これまでの政府の緊急経済対策は、企業や家計の支援、経済的な弱者の救済が中心でした。当然それらも大切ですが、ゴールはやはり経済成長でなければなりません。そのためには、もっと惜しみなくカネを使う必要があります。
日本にはカネがあり余っています。日銀統計によれば、2019年末で政府純金融負債679兆円に対して、家計と企業(金融機関を除く)の現預金合計は、なんと1288兆円。政府の債務よりも国民の預貯金のほうが、およそ590兆円も多くあります。
国内で使われないおカネは「輸出」、すなわち金融機関等を通じて国外に投資されて、対外債権になります。財務省の統計によると、2019年には日本の対外純債権が過去最高、世界第1位の364兆円に達しました。
これが、日本が世界一のカネ貸し国たるゆえんです。しかも、日本円は、ドルや金といつでも交換できるハードカレンシー(信頼度の高い国債通貨・決済通貨)なのです。