国民に10万円を配る≒消費税を5%に戻す

その豊富なカネ資源をもってすれば、日本は国債発行でコロナ・ショックを楽々と乗り切れるゆとりがあります。思い切って100兆円の国債を発行したところで、国内に余っているおカネだけで十分にまかなえるのです。

インフレを心配する声もあるかもしれませんが、もともと20年以上も需要不足で慢性デフレが続いているので、インフレ懸念は微塵もありません。

問題は政府や日銀に、この世界最大のカネ資源を国内向けに活用して、コロナ・ショックからの克服や、脱デフレ・経済再生を実現する意思があるかどうかです。当然それには政治的な決断が必要ですから、結局は政治家たちに、やる気があるかどうかにつきます。

まず政治家が発信しなければならないのは「コロナ・ショックからのV字回復を絶対に実現する」という国民に希望を与える“メッセージ”と、そのための具体的な“道筋”です。

トランプ大統領を見ても分かるように、それを絶えず発信し続けるのは政治家として当然の姿勢です。官僚が用意したペーパーをただ読み上げているだけでは、経済成長に対する意欲や情熱がまったく伝わってきません。そもそも、それを用意した官僚たちは、経済成長のことなど考えていないわけですから。

細部にこだわる官僚たちに任せていては、政策に必要な“スピード”も失われてしまいます。緊急事態だと言っておきながら、国民に10万円を配るだけでモタモタしていたことは、記憶に新しいところです。

そもそも当時、現金給付以前に議論されるべきだったのは「消費税の減税」でした。

国民一人当たり10万円の一律現金給付の総額は、日本の人口を1億2600万人とすると12.6兆円。これは、日本の家計の平均年間消費額約300兆円のおよそ4%に相当します。ということは、大雑把に計算して、全国民に10万円を配るのは、1年間に限り消費税を5%に戻すのとほぼ同じことです。

▲国民に10万円を配る≒消費税を5%に戻す イメージ:PIXTA

新型コロナウイルスのせいにしてはいけない

ならば、面倒な手続きの国民一律の現金給付よりも、消費税を減税したほうがスピーディかつシンプルに、同じような生活支援の効果が得られます。

もちろん、10万円の現金給付が不必要だったと言いたいわけではありません。まずは消費税を減税して、緊急事態の生活支援にひとまず“スピード”重視で対応し、あとから現金給付を行って支援を手厚くしていくこともできた、ということです。

消費税は、減税する場合に限っては、公平・公正な税です。消費税の増税は、高所得者よりも低所得者のほうが負担の大きくなる逆進性があり不公平です。

しかし、その税率を大幅に下げることは、低所得者や子育てなどで大変な現役世代の負担軽減につながります。そういう意味でも景気回復・経済成長のために、消費税の税率を下げていくことは重要なことです。

日本経済再生のめどが立つまでは、継続して消費税率を少なくとも5%まで下げるべきだと私は考えています。思い切って消費税率を0%にしても、必要な財源は国債で調達できます。

これまでの緊急経済対策のような戦力を小出しにするやり方では、国民の“気分”は変化しません。それは過去の大型補正予算の例からも明らかです。景気回復につながるほど国民の“気分”を回復させるには、財政政策と金融政策の両輪をフル稼働させ、合わせて消費税の減税を行うくらいのインパクトがある政策を、打ち出す必要があります。

それぐらいしなければ、コロナ・ショックからのV字回復と、それに続く日本経済復活への“道筋”を国民に示すことなど到底できないでしょう。

そもそも家計の消費意欲は、2014年4月に消費税率が8%に引き上げられた時から減退していました。それがさらに、2019年10月の消費税率10%への増税で、致命的なまでに委縮したわけです。

しかし、日銀も財務省もその事実を無視しています。増税をして、緊縮財政をして、景気が悪くなったら、補正予算を組んで小出しの対策をする――これがいつもの財務省のやり方ですが、それで景気がよくなった試しなどありません。

財務官僚OBの黒田東彦日銀総裁や、財務省の御用経済学者たちは、金融緩和によって消費税増税にともなう需要減をカバーできると、安倍首相(当時)に唱和しました。しかし、それが真っ赤なウソであったことは、すでに明らかになっています。彼らはそれに対して恥じ入ることも、反省の意を示すこともしていません。

コロナ・ショックのインパクトでうやむやになっていますが、日本の場合、デフレ不況下での消費税増税を繰り返し、新型コロナウイルス以前から個人消費を押し下げてきたわけです。にもかかわらず、コロナ・ショックで家計がどのようなダメージを受けようとも、消費税率10%という“足かせ”を外そうともしません。

おそらく政府(財務省)や財務省の御用学者、マスコミは当分の間、日本経済のマイナス成長を新型コロナウイルスのせいにすることでしょう。そのような論調にだまされてはいけません。日本経済のマイナス成長は、今も昔も“人災”なのです。

※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。