日々の生活になくてはならない存在となったコンビニエンスストア。業界全体の売上高は、東京都の予算額を上回るとも言われているが、実際に店舗で働いている人たちからは、その過酷な労働環境に苦しむ声が聞こえてくる。特にコンビニのオーナーを苦しませているのが、同一チェーン店の近隣出店である。コンビニ問題研究のパイオニア・木村義和氏に解説してもらった。

※本記事は、木村義和:著『コンビニの闇』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「成功を売るビジネス」としてのフランチャイズ

コンビニを代表とするフランチャイズ産業が、ここまで栄えた最大の理由は何か。それは、本部が加盟店にロイヤルティの対価として与えている、看板・ノウハウ・経営指導・援助である。これらは、ビジネスを成功させるためには欠かせないものばかりである。すなわち、本部が加盟店へ売っているものは、他ならぬ「成功」なのだ。

すでに成功したビジネスを確立した本部が、その成功を加盟店に売っているのだから、フランチャイズ産業が繁栄するのも当然である。

この点について、もう少し説明しよう。たとえば、あなたが商売をしたことがない、まったくの素人であると仮定する。すぐに商売を始めることができるだろうか。仮に始めることができたとしても、その店舗を繁盛店にすることができるだろうか。ほとんどの人は“NO”と答えるだろう。何のノウハウもない素人が、いきなり商売などできるはずはないからである。

これを可能にするシステムこそが「フランチャイズ」なのだ。加盟店オーナーが本部から与えられるものは、商売に必要なものすべてである。繁盛店の看板を使うことができ、商売のためのノウハウを手に入れることができる。

しかも、成功した本部から経営指導や援助までしてもらえる。このように、フランチャイズを利用すれば、まったくの素人であっても、簡単に商売を始めることができる。だから、フランチャイズ産業は発展したのである。

▲「成功を売るビジネス」としてのフランチャイズ イメージ:PIXTA

フランチャイズ産業が繁栄している理由は、もう一つある。それは、本部と加盟店の共存共栄のシステムである、ということである。

フランチャイズシステムにおいて、本部の収入は何かといえば、加盟店から得るロイヤルティである。ロイヤルティの算出方法はチェーンごとに異なるが、加盟店店舗が繁盛し長く営業を続けてくれないと、本部はロイヤルティ収入を得られないという仕組みである。したがって、加盟店の成功が本部にとっての最重要事項である。

逆にいえば、フランチャイズシステムでは、加盟店が失敗すれば、本部は儲からないことになる。本部は、ロイヤルティ収入を得られなくなるからである。だから、本部が儲けようと思えば、本部は必死に加盟店が成功するように援助をするしかない。

そして、この本部の援助によって加盟店は繁盛するようになる。加盟店が繁盛すればするほど、さらに本部のロイヤルティ収入は増えていくことになる。

このようにフランチャイズシステムでは、本部が利益を得ようとする場合、加盟店と協力し合うしかないのである。自分が利益を得るために、相手を打ち負かして利益を奪うというシステムではない。

自分が利益を得ようとするならば、相手に成功をしてもらって、共に栄えるしか方法はないのである。だから、お互いが成功という共通の目的に向かって協力しあえるのである。

この共存共栄のシステム、すなわち、どちらかが勝って他方が負けるというシステムではなく、共に勝って幸せになるというシステムになっているが故に、フランチャイズシステムは多くの人に受け入れられて、ここまで発展したのである。

みんなが幸せになる「夢のシステム」のはずだった

さらに、加盟店の店舗が繁盛することのメリットは、本部のロイヤルティ収入が増えることだけに留まらない。経済までも活性化し、フランチャイズを取り巻く人々を幸せにしていくのである。

加盟店の店舗が繁盛すれば、加盟店希望者は増える。そうすると本部は、さらにフランチャイズ店舗を増やすことができ、ますます収入は増える。

そして、その店舗で働く従業員が多数必要になってくれば、雇用が創出され、失業者は減っていく。そして、消費者としても、良いお店が周りにたくさん増えれば、消費は増えるし、買い物が便利になって、生活が快適になっていく。

このように、フランチャイズシステムは経済を活性化させ、それを取り巻く人々を幸せにするのである。このような夢みたいなシステムが、フランチャイズシステムである。だから、フランチャイズ産業は、成長し続けているのである。

そして現在、このフランチャイズビジネスは、小売業・外食産業・サービス業など多くの業種で採用されている。

しかし、本部と加盟店の共存共栄という夢のシステムだったフランチャイズシステムの代表格のコンビニに異変が起きている。

「休みは週1日未満。週70時間働いて、年収は約300万円」「毎日1万円以上の食品を捨てることを強要される」「繁盛店になったと思ったら、同一チェーン店が次々と出店してくる」などのことは、現在のコンビニで実際に起きていることなのである。

▲みんなが幸せになる「夢のシステム」のはずだった イメージ:PIXTA