自然科学系の博物館において、メインとして扱われることの多い化石。博物館に展示されるぐらいだから、発掘には途方もない作業が必要になることは容易に想像できるが、実際にはどのようにして予測し、掘り当てているのだろうか。サイエンスライターの土屋健氏が、その過程のごく一部を紹介する。

※本記事は、土屋健:著/ロバート・ジェンキンズ:監修/ツク之助:イラスト『化石の探偵術』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

自宅の庭を掘れば化石が出てくる?

たとえば、あなたの家の庭を掘ったとしよう。庭から恐竜の化石が出るだろうか。

残念ながら、日本において「家の庭から恐竜化石がみつかる可能性」は極めて低い。日本の宅地のほとんどは造成された人工のものであるし、仮に造成された土地ではなくても、日本における恐竜の化石がみつかる地層がある地域は、かなり限られているからだ。

では、仮に三葉虫の化石がみつかる地層があったとしよう。その地層をくまなく探せば、恐竜化石がみつかるのだろうか。

こちらも、否だ。

三葉虫は、古生代の生物。その化石があるということは、地層は古生代のものだ。一方、恐竜は中生代の生物である。古生代の地層から、中生代の生物の化石はみつからない。恐竜化石を探すには、中生代の地層を探す必要がある。

恐竜の化石がみつかる地層があったとしよう。その地層を探せば、同じ中生代の生物であるアンモナイトの化石はみつかるのか。

これも、その可能性は低いといえる。

恐竜は陸の生物だ。……ということは、その地層は陸でできたものだ。一方、アンモナイトは海の生物である。陸でつくられた地層からアンモナイトの化石はみつからない。

ただし、海の地層から陸の生物である恐竜の化石がみつかることはある。それは海に恐竜が生息していたわけではなく、陸から海へ流されてきた遺骸が海底に沈んで化石になった例があるからだ。

▲自宅の庭を掘れば化石が出てくる? イメージ:PIXTA

あなたの足の下にある地層が、いつ・いかなる場所でつくられたのか? その情報を示す“特殊な地図”が「地質図」だ。

地質図は、研究者や技術者が各地を歩き、調べ、そしてまとめた研究成果であり、“特定の時代”の“特定の環境”に生きていた生物の化石を探すことにおいて、まさに「宝の地図」であるといえる。

つまり、地質図がなければ化石を探せない。精度の高い地質図があれば、自分の足下の地層が、いつ、どこで、つくられたものなのかを知ることができる。

なお、産業技術総合研究所地質調査総合センターが運営するウェブサイト「地質図Navi」では、50万分の1、20万分の1、7.5万分の1、5万分の1などの各種の日本の地質図が無料公開されている。自分の家の周辺を調べてみると意外な発見があるかもしれない。