最近では、カムイサウルス(むかわ竜)が大きな話題となるなど、着実にファンが増加している古生物学の世界。その象徴的存在といえるのが化石である。化石と聞くと「恐竜の骨」をイメージする人が圧倒的多数だと思うが、実はそうではないらしい。サイエンスライターの土屋健氏が、化石の発掘・研究を行う古生物学研究の世界を紹介します。

※本記事は、土屋健:著/ロバート・ジェンキンズ:監修/ツク之助:イラスト『化石の探偵術』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

化石は必ずしも「硬い」わけではない

あなたのイメージする「化石」とは何だろう?

一般に「化石」とは「古いものの代名詞」のように扱われる。化石のような考え方。その道具はもはや化石といってよい……といった具合だ。もちろん、これらは比喩表現であり、化石そのものを説明する言葉ではない。

日本古生物学会が編集した『古生物学事典 第2版』によると「化石とは、地質時代の生物(古生物)の遺骸および古生物がつくった生活の痕跡」であるという。地質時代とは、“人類の文明史が始まる前の時代”のことだ。かなり大雑把に「約1万年前よりも昔」と定義されることもあるが、もとより文明開始は地域差が大きい。そのため、研究者によっては、数百年前の生物の遺骸であっても、そこが文明の影響のない場所なら「化石」と呼ぶことがある。

一方で、人類の文明が関与していれば、どんなに古くても化石ではないとされる。たとえば、エジプトのピラミッドや、世界各地・日本各地で発見される石器時代の遺跡などは、いずれも化石ではない。

大事な点は、化石の定義に「硬い」という単語が入っていないことだ。その字面から「化石は石のように硬いもの」と錯覚しがちだし、実際に石のように硬い化石もたくさん存在するが、それがすべてではない。化石の中には、触ればボロボロ崩れるものも、(新鮮な)空気に触れると短時間で分解されてしまうものも多くある。

日本語でこそ「石」に「化」けると書くが、英語の「fossil」の語源にあたるラテン語の「fossilis」には「硬い」という意味はない。「fossilis」は「掘り出されたもの」という意味である。

▲化石は必ずしも「硬い」わけではない イメージ:PIXTA

さて「化石とは、地質時代の生物(古生物)の遺骸および古生物がつくった生活の痕跡」という定義に、もう一度注目しよう。

古生物の遺骸ばかりではなく「古生物がつくった生活の痕跡」という一文に、お気づきだろうか。

生活の痕跡とは、足跡・巣穴・糞などだ。生物本体が残っていなくても、足跡や巣穴、糞などが残ることがある。これらも立派な「化石」だ。

生物本体の化石のことは「体化石」、生活の痕跡の化石は「生痕化石」と呼ばれる。体化石は生物の姿を知ることに役立つが、その生物がどのように生きていたのかに関しては情報が乏しい。

一方で、多くの生痕化石は、その痕跡を残した生物を厳密に特定できないけれど〔たとえば、糞化石をみつけて、その“排出の主”を特定することは困難である〕、その生物の暮らしに関しては、多くの情報が残されている。