アーミッシュに魅了された山中麻葉氏は、その実態を探るべく何度も現地に渡り、丁寧に取材を重ねてきた。アーミッシュの中には、いくつかのグループがあり、それぞれ暮らしぶりが異なります。そして、同じグループであっても住んでいるエリアによって、ライフスタイルが違ったりと多様な文化をもっているのです。

※本記事は、山中麻葉:著『アーミッシュカントリーの美しい暮らし』(エムジェイブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

人と人とのふれ合いを大切にするアーミッシュ

アーミッシュが住んでいるのは、アメリカののどかな田舎のエリアです。もともとのルーツであるヨーロッパでは、農民として暮らしていたアーミッシュが多く、アメリカにたどり着いたあとも、より肥沃で広大な農地を求めて居住エリアを広げていきました。今ではアメリカの中西部を中心に、31州にまたがってアーミッシュが暮らしています。

アーミッシュの多く住むエリアは「アーミッシュカントリー」とか「アーミッシュコミュニティ」と呼ばれます。とはいえ、一般のアメリカ人と居住エリアが区別されているわけでも、隔離されているわけでもありません。アーミッシュもそのほかのアメリカ人も、同じ場所にまざり合って、隣人として共存しています。

レストランで食事をしたり、地域で開かれるイベントに参加すると、アーミッシュも一般アメリカ人とまざって交流している様子を、当たり前のように目にします。世間話をしていたり、仕事の話で握手をしていたり、若者が集まっておしゃべりをしていたり、子どもたちが一緒に遊んでいたり…。

服装、ルーツは違えど、同じアメリカの市民。お互いに分け隔てなく接している様子を見ていると、アメリカという国の多様性、人々の懐の深さを感じます。

▲朝焼け、夕焼けのアーミッシュカントリーは特に美しい

ニューヨークやロサンゼルスとは異なる田舎のエリアですので、アーミッシュカントリーでアジア人を見かけることは、ほとんどありません。

日本人である私が、ここを旅するときはマイノリティに該当しますが、嫌な経験をしたことはありません。アーミッシュはもちろん、そのほかのアメリ人の人たちも目が合えばニコリとしてくれるし、車で歩行者やバギーとすれ違うときは、手を上げて挨拶してくれます。

日本では、道ですれ違う知らない人と挨拶することはないので、アーミッシュカントリーを旅すると、人と人とのふれ合いを大切にするスタンスを実感するのです。

▲私が訪問すると飼育中のミツバチを見せてくれました

「アーミッシュカントリー」で一番有名なのは、ペンシルヴァニア州にあるランカスターというエリアです。ここは、ニューヨークから車で3時間という近さから、全米から、いや、世界中から多くの観光客が訪れています。

アーミッシュの映画として有名な『刑事ジョン・ブック 目撃者』も、ランカスターで撮影されました。なだらかな田園が広がり、どこまでも見通せるほど空が広く、小川で遊ぶ子どもたちや、林を駆け抜けるアーミッシュバギーの景色は、そこに身を置いているだけで心が休まり、リラックスできます。

ニューヨークからわずか数時間の場所にこんなにのどかで平和な場所があるなんて信じられない……私が初めてランカスターを訪れたときには「絶句」と言っても過言でないほどの驚きを感じました。

動物と自然に寄り添った暮らしを送るアーミッシュ。幼いときから山羊や牛、馬とふれ合いながら育つので、 動物の扱いが上手。私が訪問すると、飼育中のミツバチを見せてくれたり、馬に乗せてくれたり、鶏の卵集めをさせてくれたり……牧場の暮らしを体験させてくれます。

▲こんなに小さな子でも、大きな馬も乗りこなすことができる