日本のテレビ番組において、海外の“良いところ”が大々的に紹介されることは少なくない。コロナ禍におけるオンライン授業の各国対応が絶賛されていたのも、記憶に新しいところだ。しかし、現地の人からすると、“ある上層部分”だけを切り取った報道の仕方に違和感を覚えることも多いようで……。日本のテレビの報道姿勢に、元国連職員でイギリス在住の谷本真由美氏が切り込む。

※本記事は、谷本真由美:​著『世界のニュースを日本人は何も知らない 2』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「海外の学校はIT化が当たり前」という大誤解

2020年の春先、あるテレビ番組で、新型コロナの影響を受け、休校措置をとった各国の教育現場の様子が紹介されたところ、アメリカやイギリス、中国の対応がネットで話題になりました。

私が驚いたのは、番組を視聴した人の多くが、それらの国のすべての学校がIT機器を揃えて、休校中に素晴らしいサポートを提供しているという印象を持ったことです。

この番組は、日本の視聴者にたいへん大きな誤解を与えたと感じました。

勘違いしてほしくないのは、イギリスもアメリカも、もちろん他の先進国も、日本では考えられないほど教育格差が大きいということです。

イギリスについていえば、私立と公立の教育格差は凄まじく、私立学校の教育内容は公立学校の3年以上も先をいっていることもあるほどです。算数や英語の授業だけではなく、音楽や体育もそうですし、そもそも学校の設備もまったく違います。

私立の学校は温水プールがあることもめずらしくありませんが、公立ではそのような施設はないところがほとんどです。美術や音楽の授業も、公立では皆無に等しいといってもいいくらいです。一方の私立では、たとえば音楽は個人レッスンが当たり前というところもあります。

麻薬抗争や殺人事件も起きる「底辺校」のリアル

さらに公立学校間の格差も凄まじく、住んでいる地区によって学校のレベルが大きく異なります。トップ校は全国統一試験で首位を競うほどなのに、底辺校は刑務所帰りの生徒がいたり、学校の周りで麻薬取引が行われていたり、ナイフで生徒同士が抗争を繰り広げていたり、といった感じです。

▲海外では学校間の格差がすさまじいところも多い イメージ:PIXTA

とにかく「底辺」のレベルが、日本とは比較にならないのです。反対に「トップ」のレベルも日本とは雲泥の差といっていいでしょう。私立の場合、学費は1年間で500万円や600万円というところも存在します。これでは日本と比べものにならないくらい教育格差が生まれるのも当然です。

ですから、番組で報じられたなかで、あまり治安がよくなく貧しい地区であっても、休校中の対応が良かった学校は、たまたまその自治体の予算が潤沢だったり、底上げのために教育実験校のような形で特別な支援が行われていたり、といった可能性が高いでしょう。

少なくとも、その番組で報じられていた内容は、イギリスの学校すべてに該当するわけではありません。