オンラインラーニングが充実しているのは一部だけ
欧米の学校では、普段からこのように格差があるわけで、休校中のオンラインラーニングの対応も学校によってさまざまです。
イギリスの場合、親が“教育に熱心な”公立や私立であれば、休校直後からオンラインラーニングが実施され、多くの課題が出されていました。私立の場合は、とても高額な学費を払っているわけですから、何も対応しなければ親からは声高らかに文句が出ます。
毎日5〜6個もの課題が出され、4歳児が大量の宿題に取り組んでいます。学校によってはライブ授業もあります。
ところが中堅以下の公立は、休校中のオンラインラーニングもサポートも、皆無であることがほとんどです。
いわば子どもは放置されていて、それに関してイギリスのマスコミは報道すらしません。また、各家庭にネットインフラがあるか、タブレットやパソコンがあるか、ということすら議論にならないのです。
それらは、各家庭が自己責任で用意するものという考え方なので、マスコミですらこれらのことに関してまったく問題としませんし、政府も自治体もタブレットを配るというようなことは、ほとんどやっていません。
中国に関していえば、さらに国土が広大で都市間や国民の経済格差が凄まじい。地方の学校では当然、上海のようなことはやっていないし、タブレットだってパソコンだって使い方すらわからない人が大半です。
つまり、テレビ番組で紹介された学校は、実は「各国の上層のごく一部」を紹介しただけ――という見方もできるのです。
日本での海外情報が偏った報道になりがちな理由
このような偏った内容が、日本のテレビ番組で報道されてしまう理由は何か。それは、番組の企画を立てる際に、現地の事情をよく知っているアドバイザーをつけなかったり、気になることしか取り上げなかったりするからではないでしょうか。
テレビ番組の企画を立案するときには、現地のコーディネーターを雇うことがありますが、彼らはすべての事柄に精通しているわけではありません。なおかつ言葉の障壁もあって、かなり偏った情報を盛り込まざるを得ないこともあります。
私は本業で、海外のセキュリティ事情を調べたり、オンラインラーニングの調査やコンサルティングを行ったりすることがありますが、先進事例を取り上げたくなる気持ちはわかります。そのほうが「ウケる」からです。
しかし問題なのは、マスコミでコンテンツを作成する人々のなかで、実際に海外で生活したことがある人は少なく、海外は日本よりも何でも進んでいると思い込んでいる人が多いということです。
今回の新型コロナ対策でもよくわかったように、実は日本のほうがはるかに進んでいる分野も多いのです。
この「海外=すごい」という幻想にこだわるのは、番組を制作している人たちが1980年代的というか、バブルの頃のノリがまだ抜けていないせいではないかな、と思われます。
おそらく現在、マスコミで企画に関わったり意思決定をしたりする人々が、バブル世代であったり、それより多少若い団塊ジュニアであったりすることと関係しているのではないでしょうか。
私も団塊ジュニアですが、彼らが若かった頃は、日本よりも海外のほうが凄いという論調が主流だったのです。