いまだ感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルス。イタリアやイギリスで再度のロックダウン(都市封鎖)が実施されるなど、欧州でも第2波の影響でさらに深刻な事態となっている。しかし、そこには欧州人特有のある理由があるという――。元国連職員でイギリス在住の谷本真由美氏が現地から語る。

※本記事は、谷本真由美:​著『世界のニュースを日本人は何も知らない 2』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

よくいえば個人主義、悪くいえばワガママ

私は感染症の専門家でも、文化人類学の専門家でもありません。あくまで人々の生活を観察して感じたことにすぎませんが、やはり感染が抑えられている東アジアと、爆発している欧州では、人々の考え方や生き方に大きな違いがあります。

ひと口に欧州といっても国や地域により異なりますが、とはいえ日本を含めた東アジアに比べると、哲学的なレベルでの違いが浮き彫りになっています。

それは、人々が他人に言われたことに従わないことです。これを美しい言葉で呼ぶなら「個人主義」となり、東アジア風な言い方をすれば「ワガママ」となります。

私は、普段からこの違いを感じてきました。私の専門分野は、内部統制・IT・ガバナンス・プロセス統制です。簡単に説明すると、会社のなかで人々が仕事のやり方やルール、手順を整えて守っているかどうかを確認するという仕事です。

これは仕事をきちんと行い、間違いや不正がないようにするためにとても重要です。会社が繁盛し、皆がより多くの給料をもらい、お客様に満足してもらうためにも必要なことです。

ところが、こういったルールや手順をつくっても、欧州の人々は先ずそれらを無視することが前提になっています。なぜなら、彼らは人に命令されることを大いに嫌うからです。

特に、自分より下と考えている女性や外国人の言うことはほとんど聞きません。ルールに書いてあることに、意味不明な難癖をつけて会社の人々を困らせます。まるでそれはゲームのようです。彼らはあらゆる抜け穴を探してルールを破ります。

そして必ず嘘をつきます。そのため、こちらはルールを破った際の罰則を、恐ろしいほど厳しくしなければなりません。会社の携帯電話を持ち出して業者に売り飛ばした場合は罰金120万円を科す、という感じです。

ルールを破る人ばかりなので、システムや抜き打ちの監査を定期的に行い、監視をする仕組みもつくらなければなりません。監視する人が内部の人だと緩くなることがありますから、利害関係がない外部の方にお願いすることもあります。

そういう「ルール」をつくる仕事や、監査をする仕事、監視する仕事、誰が何をやっているか文書やシステムに起こして記録する仕事が、欧州やアメリカでは無数にあり、いずれも給料が高めです。それらは人に恨まれる仕事だから給料が高いのです。

▲よくいえば個人主義、悪くいえばワガママ イメージ:PIXTA

「ルールは破って当たり前」という国民性

日本をはじめ東アジアだと「ルールでは、こうなっているんですよ」と言えば、誰もが「はい、そうですか」と言って、あっさりそれに従ってくれます。特に、日本の場合はほぼ100%です。

さらに日本だと「禁止」と書かなくても「自粛」や「お願い」と記しておけば、きちんと守ってくれる人がほとんどです。自己チューな人が多そうな中国や韓国でも、全体的な傾向はやはり日本と似ています。これは新型コロナの対策でも、まったく同じです。

しかし欧州では、多くの人は政府の要請やお願いを無視して、イタリアでの死者が中国を超えたにもかかわらず、バーベキューパーティーを楽しんだり出歩いたりしています。

「他人にウイルスをばらまかないためにマスクをしてください」「マスクは手づくりのものでもかまいません」と言っても絶対につけません。手も洗わず、至近距離でツバを飛ばしながら会話をする。

こうした自己チューは、自由を愛するイタリアでは特にひどい状況です。私はかつてイタリアに4年間、住んでいました。彼らの自己チューぶりは芸術や食の分野ではたいへん良い方向に働くのですが、公衆衛生の方面では正反対です。

ルールを破ることが生きがいのような人たちですから、政府や人に言われたことには逆ギレして守りません。自分の行動が社会に及ぼす影響はまったく考えていません。自分の快楽や幸せが一番ですから、他人などどうでもいいと思っている人も多いのです。

家族に死人が出て、やっと自覚するのです。でもそれでは、時すでに遅し。そうした自己チューな国民性が、現在の悲惨な状況を招いている一因なのです。