宇宙の始まりから、地球の誕生、生命の誕生まで――私たちが暮らす、この銀河系には誰かに話したくなる壮大なロマンや、まだ解明されていない不思議な世界が広がっている。宇宙科学界を牽引する学者・高橋典嗣氏が、最新の研究結果から「月」や「海」が、どのようにして生まれたのかを解説する。
※本記事は、高橋典嗣:著『地球進化46億年 地学、古生物、恐竜でたどる』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
ジャイアント・インパクトで誕生した月
44億5000万年ほど前に誕生した月の起源については、これまでいくつかの説が唱えられてきました。月は地球とは別のところで誕生し、地球の近くを通過したときに地球の引力に捕らえられたという「捕獲説」。誕生したばかりの地球が速く自転していたため、マントルの一部が分離して月になったという「親子説」。月は原始地球といっしょに誕生し、ともに成長してきたという「兄弟説」......などです。
いっぽうで、月には次のような特徴があることがわかっています。
- 月は、ほかの惑星の衛星と比較すると大きくて(地球半径の4分の1)、遠く(38万km離れている)を比較的速い速度で公転している。
- 月と地球は、ほぼ同じ材料でできている。
- 月は地球に比べて、水・ナトリウム・カリウム・亜鉛・鉛などの揮発性物質(蒸発しやすい物質)が極端に少ない。
- 月には地球のように大きな金属の核がない。
- 形成直後の月面は、溶けたマグマに覆われていた。
これらの月の特徴(条件)から、月の起源として最有力視されているのが、ジャイアント・インパクト(巨大衝突)説と呼ばれるものです。この説によれば、地球に火星サイズの原始惑星(テイアと呼ばれる)が斜めに衝突。そのとき飛び散った地球のマントル部分の一部と衝突した天体が合体して、現在の月になったというのです。
では、地球とテイアの衝突を再現したコンピュータ・シミュレーションを見てみましょう。
まず、テイアが地球に衝突し、飛び散った地球のマントル物質が溶けて、円盤状に地球を取り巻きます。このとき、残りの物質は地球の重力に引き寄せられて落下。次いで、円盤状に地球を取り巻いているマントル物質の破片は、衝突エネルギーによって砕けた高温状態の物質で、衝突と合体を繰り返し、やがて成長して月になった......というシナリオです。
この説では、形成初期の月はドロドロに溶けていて、表面はマグマオーシャンになっています。そして時間が経って冷えていくにしたがい、軽い斜長石が浮き上がってきて固まり、月の「高地」と呼ばれる領域になったと考えられているのです。
44億年前の地球誕生直後には海があった可能性も
現在の地球表面の約70%は海で、地球は太陽系で唯一、表面に液体の水が存在する惑星です。太陽のような恒星の周囲を回る惑星の表面に、水が液体で存在する温度になる領域をハビタブルゾーン(生命居住可能領域)といいます。
そして、太陽系でハビタブルゾーンにあるのは地球だけです。水星や金星は太陽に近すぎて水は蒸発して水蒸気になってしまうし、火星では水は極冠や地下にあり、氷として存在しています。
現在「第二の地球探し」と題した、生命が存在可能な太陽系外惑星探しが盛んで、候補となるハビタブル惑星がいくつか見つかっています。しかし、そのすべてに海が存在するわけではありません。地球のような豊富な海の水が、必ずあるとはかぎらないからです。では、地球の水はどこからきたのかを考えてみましょう。
誕生したばかりの地球は熱すぎて、表面に液体の水を保持できませんでした。しかし、地質学的な証拠から、少なくとも38億年前には地球に安定した海が存在していたことがわかっています。
他方で、西オーストラリアのマーチソン地方の30億年前の堆積岩(礫岩)中に、44億年前につくられた「ジルコン」という鉱物(ケイ酸塩鉱物の一種)の粒子が見つかりました。このジルコンは、現在、地球で見つかっている最古の物質です。
またジルコンは、マグマが冷える過程で晶出してできるので、44億年前の地表には地殻が形成されていて、火山活動があったことがわかります。
さらに、このジルコンの化学成分をくわしく調べた結果、当時の地球はこれまで考えられていたよりも気温が低く、液体の水が存在し得る環境だったと考えられるようになりました。これが事実だとすれば、地球誕生直後の44億年前には、地球に海が存在していた可能性があることになります。