高齢化社会にあって、親の介護は誰もが向き合うべき問題である。そしていざ介護というときにぶち当たるのが「お金」の問題。なかなか一般化することが難しいが、ここでは競馬ライター田端到さんのケースを紹介する。「月またぎ入院」や「特養〔特別養護老人ホーム〕」にかかる費用の相場など、自分事にならないと知らないことが多い。
入院が1日ズレるだけでかかるお金が倍に?
父親が認知症、母親が重い病気になった。父は一人で外出して迷子になり、警察のご厄介になったという。母は、そんな父の面倒を見てきたが、今すぐ入院しなければいけない病状だという。田舎で二人暮らしだった父と母。
実家へ帰ってみて、事態の深刻さをあらためて知ることになる…。
父の在宅介護にひと区切りがつき、当面の心配は母の病状だ。
肺炎の完治からしばらく静養した後、母は肺がんの切除手術を受けた。病気に対して素人ができることは何もない。手術室へ送り出すとき、ベッドに乗せられた母が、やけにがっしりとぼくの手を握りしめ、緊張した表情をこちらへ向けた。
ちょっと待ってよ、まるで今生の別れみたいな握手をされたら、まともにあなたの目を直視できないじゃないですか、とドキっとしたが手術は無事に成功。1週間もすれば、退院できるという。
ただし、この時にぼくはひとつ、お金の面で失敗をした。損になると知らず、わざわざ「月またぎの入院」の日程を選んでしまったのである。
月またぎの入院がなぜ損なのか。知っている人には初歩レベルの常識らしいが、病院と縁のない生活を送ってきた同類の人たちのために説明しておこう。
医療費は、高額療養費制度によって負担が軽減される。
高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、その超えた分のお金を払い戻してくれるという、ありがたい仕組みだ。自己負担の限度額は、年齢や所得に応じて決められている。
うちの母の場合、自己負担の金額は月に4万4400円だった。つまり、医療費がいくらかさんでも1ヶ月の支払いはこの金額におさまる。がんの手術+入院ともなれば費用は高額になり、本来なら80万円以上の医療費がかかるところも、とりあえずの支払いは健康保険の1割負担(当時)で8万円少々。後日、限度額を超えた分が戻ってきて、4万4400円で済む。
ただし、この制度は月単位で計算される。
入院が月をまたぐと、もともとの医療費80万円が、2月分の70万円+3月分の10万円というふうに分かれてしまうため、高額療養費制度が適用されても、2月の支払いは4万4400円、3月の支払いも4万4400円。結果的に倍の費用がかかってしまう。たった1日でも月をまたぐと、その分が負担になる。
ぼくはこの仕組みを知らず、母の手術の際に「いつ入院しますか。急ぐ手術ではないです」と医者に言われたのに、少しでも早いほうがいいだろうと焦り、すぐに入院の手続きをとった。そしたら、それがたまたま月末で、月またぎの入院になった。