マクロファージなしに生物は生きられない

高い食機能を持つマクロファージが、ロシアの生理学者・エリー・メチニコフにより発見・命名されたのは、約100年前のことです。あらゆる動物が同様の食細胞群を有しており、進化的に見て、下等な動物から高等な動物まで、すべてに存在する細胞群だということが、それから認識されるようになりました。

▲エリー・メチニコフ 出典:ウィキメディア・コモンズ(PD: "Copyright : domaine public.")

マクロファージは、無脊椎動物から脊椎動物に至るまでの、さまざまな多細胞性動物の全てに存在します。これらのマクロファージの貪食機能は、単細胞動物においては「自分以外のもの」(非自己=異物)と認識したものを食物として摂取し、一方で、同族はお互いを認識し合って共存するために必要な機能であったと考えられます。

そしてこの機能は、多細胞動物に進化した後には、外界からの侵入異物や、生体内で不要になった細胞や制御を外れた細胞(例・がん細胞)などを除去し、個体を生存させるために必要な機能へと分化したであろうことは容易に推測できます。

いずれの動物においても、マクロファージを完全に欠損させると、生命を維持することは不可能であり、自然界に生存することはできません。ヒトでは、マクロファージは肺・肝臓・腸管・血中をはじめ、脳・筋肉・骨など、生体内のあらゆる組織に隈なく常在します。

それぞれの組織によって、たとえば脳では「マイクログリア」、肝臓は「クッパー細胞」、肺は「肺胞マクロファージ」など多様な名称で呼ばれて、組織ごとに独自の性格を有しています。

さらに、環境情報受信の最前線にあって、環境の変容情報に柔軟に対応する能力が高く、可塑性に富んだマクロファージは、末梢血の単球から体の中のあらゆる組織・器官に遊走して、“組織マクロファージ”へと分化することもできます。

すなわち、マクロファージは、共通の機能として、旺盛な貪食作用・殺菌・抗原提示・腫瘍細胞傷害・サイトカインなどの分泌・脂質の代謝作用などを持ちながら、その質および程度は、それぞれの組織や臓器等の役割に応じて異なっているというわけです。

免疫強化だけじゃないマクロファージの働き

マクロファージの働きは多岐にわたりますが、主なものを列挙してみます。

■抗ガン作用

ガン細胞の駆除と全身のガンの予防

■感染防御

髄膜炎、脳炎、気管支炎、肺炎、結核、ウイルス性肝炎、膵炎、胃炎、胃潰瘍、腎盂炎、膀胱炎、前立腺炎、リンパ節炎など感染症の予防

■免疫のコントロール

免疫のバランス調整、アレルギー症炎、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患(リウマチ)の予防と改善

■新陳代謝

アミロイド(タンパク質のゴミ)を除去、死白血球の処理、老化赤血球の処理、アルツハイマー型認知症、Ⅱ型糖尿病、狂牛病、不整脈、パーキンソン病などの予防

■結石の溶解

腎結石、尿管結石の予防と改善

■創傷治癒

皮膚創傷治癒、火傷・ケガの回復、骨の再生、骨折の回復、肝細胞の修復、肝臓の再生、肝機能の回復、脳神経細胞、末梢神経の修復、脳梗塞・脳内出血による後遺症の回復、統合失調症、うつ病、自閉症、末梢神経障害(筋萎縮症など)の予防

■代謝調整

鉄代謝、貧血の予防、コレステロールの調整(血中酸化LDLの除去)、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症の予防と改善。脳梗塞、心筋梗塞の予防