新型コロナウイルスの感染が拡大する1都3県に、2度目の緊急事態宣言が発令された。収束の兆しが見えないなかで、私たちは何をすべきなのでしょう。手洗いやマスクはもちろん、外出の自粛などもずっと続けなくてはいけないのでしょうか。いま注目されるのが、人間が本来持つ「免疫力」。腸内細菌研究の第一人者である藤田紘一郎氏に「免疫力」と「新型コロナ」の関係性についてわかりやすく解説してもらいました。

※本記事は、藤田紘一郎:著『感染症と免疫力』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

「感染症の制圧」は幻想にすぎない

感染症は決して地球上から消えることはありません。ひとまず去っても、また静かに入り込んできて、人間社会に大混乱を巻き起こします。感染症はどんなに医学が発展しても、決して制圧できる病気ではないのです。

事実、天然痘根絶宣言が出された翌年の1981年には、新しい感染症「エイズ」が突然に現れて、アメリカ合衆国というもっとも近代化された国の人々を襲い、世界に広がりました。

さらにアメリカには、1989年にフィリピンから輸入されたカニクイザルからエボラウイルスが侵入し、大混乱をきたしました。1993年には再びアメリカで、ハンタウイルス肺症候群が突然出現しました。

アメリカ国内での新たな感染症の発生という事実を踏まえ、WHOと米国の科学者たちが緊急会議を開きましたが、その協議の直後にも、世界では新たな病原体の出現が続きました。

1994年にはオーストラリアでウマモービリ(ヘンドラ)ウイルスが発見されています。同年にブラジルでは出血熱が起こりました。原因は、新しい病原体のサビアウイルスであることが認められています。

こうした新たな感染症が相次ぐなかで、WHOが1995年の年次報告にて「新興・再興感染症」という概念を提唱するに至ったのでした。

実際、そこに至るまでのわずか20年の間に、エイズ・エボラ出血熱・O157感染症・レジオネラ症・クロイツフェルトヤコブ病(狂牛病)・C型肝炎など30種類以上の新しい感染症が、次から次へと地球上に現れていたのです。

しかも、それだけではありませんでした。過去に制圧されたはずの結核・コレラ・ジフテリア・ペスト・サルモネラ症・百日咳・狂犬病・マラリア・デング熱・劇症型溶血性レンサ球菌感染症などが、世界中で急に再燃してきています。いわゆる「再興感染症」です。

かつて猛威をふるい、人類が打ち勝ったと思っていた感染症も、地球上から消滅したわけではなかったのです。

▲「感染症の制圧」は幻想にすぎない イメージ:PIXTA

命運をわけるのは個体の持つ免疫力の強さ

人も物も自由に動く国際社会になった現在、恐ろしい伝染病の流行を「対岸の火事」のごとく眺めている、ということは、もはや許される状況にありません。新型コロナは、そのことを私たちに強く知らしめました。

人が動けば病気も動きます。世界中からたくさんの人やいろいろなものがやってくる日本に、アフリカやアジア、南アメリカの奥地から、ある日突然やっかいなウイルスが紛れ込んできても、なんの不思議もない時代を私たちは生きています。

そうした社会で、自分の身を守るために、一個人としては何をすればよいでしょうか。

一つ、重要なことがあります。それは、おのおのが免疫力を鍛えていくことです。人類が地球上に誕生してから今日まで繁栄してこられたのは、防衛システムである免疫が、非常に強固にうまく働いてきたからです。

そうでなければ、微生物の棲み家である地球上で、細菌やウイルス、寄生虫などにとり囲まれながら、今日まで生き抜いてくることはできなかったでしょう。

では、免疫とはどのようなシステムでしょうか。私たちの体は、微生物などの外敵から体を守り、病気になるのを防いだり、かかった病気を治したりする力が備わっています。これこそが免疫力です。

具体的には、新型コロナやインフルエンザなどの病原体に対応する一方で、がんやうつ病など心の病気も予防しています。疲労や病気の回復を早めますし、体調が悪くなることも防ぎます。新陳代謝を活発にし、体の機能低下を防ぎ、細胞組織の老化も抑えています。

私たちの体には、人類が誕生してから約700万年という時をかけ、たくさんの恐ろしい病原体の攻撃に対抗することで進化し、発達してきた、免疫というシステムが備わっている、ということです。人が自然界のなかで、たくさんの微生物にとり囲まれながら命をつなぎ続けてきた約700万年、薬もワクチンも何もないなかで、免疫力がうまく働いた者だけが次の世代に命のバトンを渡すことができました。

私たちは、そうやって微生物の攻撃に負けることなく生き抜いてきた子孫です。このことは、文明の発達した社会にあっても同じです。

新興・再興の病原体が人間社会にある日、突然広がったとき、私たちは有効な薬もワクチンもまだ持ちません。そんななかで、命運をわけるのは、個体の持つ免疫力の強さになるのです。

▲命運をわけるのは個体の持つ免疫力の強さ イメージ:PIXTA