「無症状の人が多い理由」を考えてほしい

コロナ禍では、感染してもはっきりとした症状の出ない「不顕性感染」が、ずいぶんと問題になりました。不顕性感染者は、症状が出ていないわけですから、自分で感染に気づかないまま、いつもどおりの生活を送ることになります。そうしてウイルスを排出し、感染を広げてしまう可能性が高くなります。

他者に感染を広げないためには、当然「自分は感染していないはず」と思っても「不顕性感染」の可能性はありますから、社会的な行動にはじゅうぶん注意する必要はあります。そのうえで「不顕性感染」がどういうことなのかを考えてみましょう。

それは自然免疫が高く保たれているからです。新型コロナウイルスは、自然免疫が高く保たれていれば、感染しても発症しないことがわかってきています。自然免疫が高ければ、新型コロナなどの病原体に感染しても、症状は表に出てきません。人が病気にならないための、実は「理想の状態」ともいえるのです。

自然免疫とは、生体における常設の防衛部隊で、生まれながらに体に備わったシステムです。植物や昆虫、環形動物であるミミズなども持っている、原始的な免疫システムともいえるでしょう。

自然免疫にかかわる免疫細胞の特徴は、その表面にアンテナのような受容体(レセプター)があることです。このアンテナが、細胞の表面に見られる特殊な構造を認識して細菌と結合することで、免疫が刺激されて免疫応答が起こります。

ですから自然免疫は、病原体のことを学習する必要がありません。侵入してきた細胞やウイルスに対する武器(抗体)をつくることもありません。そのぶん、素早く対応できます。病原体が侵入してくると真っ先に働き、敵をどんどん倒していくことができるのは、自然免疫のこうした性質のためです。

▲「無症状の人が多い理由」を考えてほしい イメージ:PIXTA

自然免疫の段階で外敵を排除できれば、その感染によって影響を受ける体細胞も少なくてすみ、症状もほとんど出ません。もし現れたとしても、鼻水や咳が軽く出る程度でしょう。

今、新型コロナが流行するなかで「いかに感染しないか」が重要視されています。しかし、自然免疫で対応できる感染症の場合は「たとえ感染しても、発症しない。重症化させない」というほうがはるかに重要です。

感染免疫学という学問を専門とし、長く研究を行ってきた立場から言わせてもらうならば、新型コロナに関しては「感染」はたいした問題ではありません。感染したところで、自然免疫が高ければ重症化する心配はなく、症状が現れたところで、ただの風邪かそれ以下だからです。

なお、自然免疫が高ければ防ぐことのできる病気には、新型コロナウイルス感染症のほかに、普通感冒(風邪)やアレルギー性疾患(花粉症・アトピー性皮膚炎・気管支ぜんそく)などもあります。