今なお、世界中に蔓延し人類を恐怖に陥れている新型コロナウイルス。日本も第三波に襲われています。そんな状況下で注目されているのが、人間が本来持つ「免疫力」です。免疫力が整っていれば、たとえ感染しても重症化しないとも言われています。そこで、腸内細菌研究の第一人者である藤田紘一郎氏が、免疫力についてわかりやすく解説してくれました。
※本記事は、藤田紘一郎:著『免疫力 正しく知って、正しく整える』(ワニ・プラス刊)より一部抜粋編集したものです。
感染症にかかるかどうかは「免疫力」による
「免疫」とは、どのようなものでしょうか。
免疫は「疫(病気)を免まぬがれる」と書きます。たとえば「はしか」は、一度かかると二度とかからないか、かかっても軽くすみます。はしかに対する免疫ができ、病気から逃れられるようになるためです。この現象が「免疫がある」と言われてきました。
この働きを医療に初めて応用したのが、イギリスのジェンナー(1749~1823年)です。彼は当時、恐れられていた天然痘に対して、牛痘の膿を接種することで天然痘に対する免疫を得られることを発見し(1796年)、予防接種の創始者となりました。
その後、免疫の研究が進み、それに対する考え方が変わっていきました。免役とは人が病気から“免れる”だけのしくみではなく「異物を認識して自主的に排除する」しくみだと、考え方が変化していったのです。
それは、免疫の第一の働きが「感染に対する防衛」と考えられるようになったことにも表れています。病原性のあるウイルスや細菌が体内に侵入してきたとき、免疫には、その病原体を排除して、感染を防止するよう働くしくみが整っているのです。
つまり、免疫が働く力を高めれば、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染を防ぐことが“可能”となるのです。
新型コロナウイルスにも十分対応できる
たとえば、新型コロナウイルスの感染は、免疫力の差で症状の度合いがまったく異なります。
糖尿病などの基礎疾患を持つ人は、感染すると重症になります。持病と闘うために、すでに免疫の力を多く使っているからです。このため、感染症の対応に振り向けられる免疫力が、すでに落ちてしまっているのです。
また高齢者は、加齢によって免疫力が低下しています。妊娠中も免疫力が低下します。一般的にいって、妊娠時に肺炎になると重症化するリスクが高いため、用心するにこしたことはありません。免疫抑制剤や抗がん剤などを使っている人も、免疫を薬の力で落としていますから、感染しやすくなっているでしょう。
こうした人たちは、免疫力が低下していますから、新型コロナウイルスに限らず、どのような病原体においても、感染すると重症化しやすくなります。常日ごろから人ごみの多い場所をできるだけ避け、感染予防に万全を期すことをおすすめしたいと思います。
若くて基礎疾患のない人は、通常は免疫力が高いため、ウイルスが入り込んでも症状が現れません。ただし、ウイルスが体にいる状態で、不規則な生活を続けたり、免疫を下げるような食べ物をとり続けていたりすると、体内のウイルスが急に増殖して症状が現れ、たちまち悪化することが起こってきます。若い人が新型コロナウイルス陽性になったとき、感染源が不明であることが多いのは、このためです。
中国の武漢で、今回の新型コロナウイルスが発生したとき「あっという間に世界に広がるだろうな」と感じました。このウイルスは感染しても症状の出ない人が多く、しかも潜伏期間中も感染源になるためです。その無症状感染者が感染を広げるとすれば、人の往来をいっさい止めなければ拡大を防げないことになります。しかし、これは事実上無理ですから、感染者はとんでもなく増えると思っていました。
ただ一方で、このウイルスをむやみに恐れることはないとも考えていました。感染しても無症状か、軽症の人が多いということは、人の免疫力で十分に対応できる病原体であることを表しているからです。
これは、新型コロナウイルスに限ったことではありません。風邪やインフルエンザ、食中毒などの感染症は、免疫力を高く保つ努力を日々行っていれば防ぐことができますし、大切な命と健康を守ることができるのです。