こんにちは。獣医師の北澤功です。私たち人間は、基本的に視覚から得られる情報を頼りに生きていることに異論はないと思います。しかし、すべての動物が、視覚が発達しているわけではありません。視覚以外のものから情報を得て生きていかなければならない動物もいるのです。今回は、動物の不思議な体の仕組みについてのお話です。

見えていないけど見えているルイちゃん

夜中の入院室。僕はひとりで、ネコのたまちゃんの点滴を交換していました。すると誰かが後ろから僕の肩を叩きます。振り向いて確認しましたが、誰もいません。

一体なんだったんだ……と思いながらも、再びたまちゃんの点滴交換に戻ります。少しすると“トントントントン”と、今度は僕の頭を誰かが叩きます。よーく見てみると、隣のケージの隙間からネコのルイちゃんが手を伸ばし、ネコパンチをしていたのでした。

ルイちゃんは赤ちゃんのころ、不運な事故により、両方の眼球を摘出していました。あれ、どうして僕の肩の位置がわかるのかな? 「視覚」はないはずなのに……。でもルイちゃんは、闇雲に手を伸ばしていたわけではありません。その手は間違いなく僕の肩を狙って伸ばしていました。もしかして、見えている? いやいや、そんなはずがない。

▲鋭いネコパンチを繰り出します イメージ/PIXTA

たまちゃんの点滴の交換を終えてから、ルイちゃんをケージから出してみました。遊んでほしいのかな? と思った僕は、猫じゃらしをプルプル揺らしながら近付けてみます。すると、先端部にピンポイントでネコパンチ。続けてお尻のほうで揺らしてみると体の方向を変えて、やっぱり素早くパンチ。

間違いなく見えている!! いえ、感じているのでしょうか。もしかしたら、摘出した眼球以外にもう一つ、つまり、第三の目があるのでは? と考えてしまうのも無理はありません。

第三の目を持つ生物は存在する!

昆虫や魚、トカゲの仲間には「頭頂眼」と呼ばれる第三の目を持つ生物がいます。この目は頭のてっぺんにあります。特にカナヘビ(トカゲの仲間)の第三の目には、他の目と同じように、水晶体や網膜が備わっているのです。しかし、鱗に覆われていて外部から見ることはできません。また、像を捕らえる機能がないため、物を見るという役割ではないそうです。

この目の機能は、今のところはっきりわかっていないのですが、太陽などの光を感じて、体温やホルモンの調整をしていると考えられています。

人間にも古代文明の時代、眉間の上に第三の目がある「三つ目族」が存在していたとされています。現在もその子孫が、世界各地でひっそりと存在しているとかいないとか……。