『鬼滅の刃』で注目された「全集中の呼吸」。超人的な技に思えますが、きちんとトレーニングすれば誰にでも身につけられるそうです。イチロー氏や宮里優作選手はじめ多くのスーパーアスリートのトレーナーを務めてきた森本貴義氏によると「最大のポイントは横隔膜を使うこと」だと言います。24時間、横隔膜をしっかりと動かす呼吸こそが「全集中の呼吸」なのです。
※本記事は、森本貴義:著『入門!「全集中」の呼吸法 -自宅ですぐ始められる最強エクササイズ-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
トレーナーから見た「全集中の呼吸」とは?
この何年か、さまざまなシーンで「呼吸」に注目が集まっています。アスリートのパフォーマンス向上、ビジネスパーソンの集中力・効率アップ、そして日常生活での健康維持、体調管理などに「呼吸」の重要性が少しずつ知られるようになってきています。
そして、さらに2020年末には流行語大賞を受賞するほどのヒットとなった『鬼滅の刃』の影響で、小さな子どもから総理大臣までが「全集中の呼吸」で盛り上がりました。
『鬼滅』が大きな話題になるとともに、多くの人から「全集中の呼吸ってどんな呼吸のこと?」「炭治郎がやっていたトレーニングってほんとに効果があるの?」「呼吸法で強くなれるんですか?」といった質問をされるようにもなりました。
私はアスレティックトレーナーとして長年仕事をするなか、10数年前から呼吸を改善することが、アスリートのパフォーマンスや集中力のアップに非常に有効で、しかもケガの予防や疲労の回復などにも必須であることに注目して、多くの選手や若手のトレーナーたちを指導してきました。
正しい呼吸を身につけることは、トップアスリートだけではなく一般の人にも非常に重要なことですから、この数年はもっと広く多くの人に知ってもらうための努力を続けてきたのですが、これほど多くの人に「呼吸」「呼吸法」についての質問やメディアの取材を受けたのは初めてです。
思わぬ反響に私もアニメを見てみましたが、主人公の竈門炭治郎たちのさまざまなトレーニングはとても興味深く、ストーリーや美しいグラフィックも十分に楽しませてもらいました。
科学的にも納得できる点が多い『鬼滅の刃』
当然ながら『鬼滅の刃』はトレーニングの教科書や医学書ではありませんから「いくらなんでもこれはムリだろ」というもののほうが多いのですが、呼吸トレーニングの専門家の私から見ても「あ、この部分は作者が呼吸法のことをよく勉強して描いているのだろうな」「これは科学的にも正しい」という部分もありました。
たとえば「呼吸法によって細胞まで酸素がゆきわたる」「長い呼吸を意識」「自然治癒力を高め、精神の安定化と活性化を目指す」といったセリフは、まさにその通りです。
しかし、どんなスーパーアスリートであっても、息を吹き込んでひょうたんを割るのはもちろん不可能で、炭治郎は「貧弱な肺が強くなればできる」と訓練に励むのですが、これは半分間違いです。イメージとしては「肺活量を大きくすればよい」ということなのだと思います。確かに肺活量が大きいことは悪いことではありませんが「とにかく肺活量を大きくすれば体が強くなる」ということはないのです。
訓練の途中で「全集中の呼吸を続けることで血の巡りと心臓の鼓動が速くなり、体温が上がって鬼のように骨も筋肉も強くなる」というセリフもあります。「全集中の呼吸」がどんなものなのかはさておき、ここも一部正解です。呼吸法によって血液による細胞への酸素供給量を上昇させ、心臓の拍動を速め、体温を上げることは可能だからです。
とはいえ、それが「強い」ことにつながるとは限らず、また骨と筋肉が強くなるかといえば、そうは言えません。