火星で生命体の痕跡を発見できるか?
では、地球外からの訪問者がいないことを
どう説明すれば良いでしょうか?
はるかに高度な種族が遠くにいて私たちの
存在に気づいているものの、原始的な生活の中に
放っておいてくれているのかもしれません。
しかしこの仮説では、下等生物への
思いやりがあまりにもあるように思われます。
いったいどれだけの人が、どれぐらいの
昆虫やミミズを足で踏みつぶしてしまったか
ということに心を悩ませるでしょうか?
『ホーキング、未来を語る』より
火星には、かつて地球と同じような環境があり、何かしらの生命体が存在していた可能性があると言われて久しくなります。現在、火星ではNASAのインサイトなどの探査機が降り立って探査中です。ですから、人類が自分たち以外の生命体の痕跡を発見するとしたら、火星が今一番その可能性が高い地球型惑星と言えるでしょう。
また今後、この太陽系以外の外宇宙に存在するハビタブルゾーンにおいても、生命体の生息もしくは痕跡が発見される可能性もあります。または地球のような環境でなくても、その星の環境に適した生命体が存在しているケースも見つかるかもしれません。
もし今後の観測・調査で、原始的な微生物であったとしても、何かしらの生命体が生きている兆候、または過去に生きていた痕跡が見つかった場合、もうそれだけで現代の宇宙観は確実に変わると思います。つまり「地球だけが生命を育む奇跡の星だ」と言われ続けていた概念そのものが一気に変わるわけです。
近年、この地球上でも超極寒環境やpH12など、生命体にとって有毒なはずの高アルカリ性環境の中でも生きている生物が発見されています。そのような超極限環境でも、生命体の存在が確認されているわけです。ですから、地球人からすれば超過酷な「こんなところに絶対に生命はいるわけない」と考えていた星の環境下でも、生まれて育まれている生命体が存在しているのかもしれません。
もっと言えば、我々のようにタンパク質が生命の根源ではない生命体が存在する可能性だってあります。そうなれば、我々が持つ宇宙観だけではなく、生命観も変わります。「宇宙では生命はありふれている。そして宇宙は、いろいろな種類の生命に満ちあふれている」ということになるかもしれません。
そのように考えると、知的に発達した生命体の存在も、宇宙では珍しい存在ではないことになるかもしれません。今後の観測、探査活動の進展が期待されます。
※本記事は、若田光一:著『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』(日本実業出版社:刊)より、一部を抜粋編集したものです。