「デザイン」と聞いて多くの人がイメージするのは、芸術や美術関連の「見た目の造形」を示す言葉ではないでしょうか。しかし、本来は「新しい環境に適応するための、新しい価値とモノゴトの創造計画と可視化」という意味を持つ言葉です。

しかし、現代、特に日本では、まだまだ既成概念に縛られ本来の意味で「デザインする」ことができていないと語るのは、テックファーム株式会社にてデザイン事業と部門を立ち上げた、情報デザインのスペシャリストである天野晴久氏。天野氏が語る「デザインする」ということの本当の意味とは。

※本記事は、天野晴久:著『創造力とデザインの心得 5年後の“必要”をつくる、正しいビジネスの創造計画』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

仕事として見たときの「デザイン」

デザインを実際に活用していくにあたり、1つ注意してほしいことがあります。

それは、仕事としてのデザインには、実際にモノを製造したりコトを実行したりする作業は含まれないということです。

創造計画を立て、それをわかりやすく伝える(可視化する)までがデザインの仕事(役割)です。

ここが明確にならないと、「新しい状況に適応するための、新しい価値とモノゴトの創造計画と可視化」という定義と、仕事としてのデザインのありかたに矛盾が生じてしまうのです。

ちなみに、日本の文部省(現文部科学省)ではデザインを「工業図案」または「造形計画」などと定義してきました。

工業分野における創造計画に特化していることが見て取れます。

高度経済成長期の日本にとっては、モノづくり産業を中心とした工業大国になることが急務だったためです。

▲モノづくりの図案や計画を「デザイン」と呼んできた イメージ:Hirotama / PIXTA

現在の日本は、仕事としてのデザインを、自社商品の開発という領域から、社会の問題解決のためのモノゴト創りという領域に切り替えていく必要があります。

これが既成概念を取り払い、社会に変化と成長をもたらす第一歩になるからです。

とはいえ、日本では仕事としてのデザインが、まだまだ工業や産業という概念に強く縛られ続けています。

そのため、既存の事業ドメインのなかで新商品を開発するというところから、なかなか抜け出せないのです。

日本の多くのデザイナーたちは、そうした環境のなかで仕事をしています。

教育の現場と、仕事の現場の両方で、デザイナーの持つ試行錯誤や問題解決の視点を「創造計画」に正しく応用する環境を整えていかなくてはなりません。

単に商品の造形を決めるという領域からデザインの仕事を解放することは、現在の状況を変えるために必要な取り組みなのです。

「デザインする」とは、実際には何をすることなのか

モノの見た目を造形することは、デザインという行為全体のごく一部に過ぎません。

では、本来のデザイン行為とは何をすることなのでしょうか。

基本的な流れのイメージは次のようなものです。

1・新しい問題や課題の発見(解決が必要な状況に参画する)
                                                   ↓
2・解決のために対策を練る(解決策の創造計画を立てる)
                                                   ↓
3・対策(創造計画)を可視化し、具現化のためにエンジニアに伝える

1はデザインのスタートです。

最初のポイントとなるのは「必要性」を見出すことです。

必要性は、「必ず解決しなくてはいけない問題や課題」といい換えてもいいでしょう。

プロダクトやサービスといった解決策を考えるよりも先に、これをおこないます。

2からは、解決策を考える「アイデア」の段階に入ります。

アイデアの第一歩は「自分たちには何ができるのか」という仮説を立てることです。

この一連の流れには「理想」が深く関わってきます。

このとき軸となるのは、問題を解決した先の未来のありかたをきちんと描いておくことです。

つまり「自分たちのプロダクトやサービスが存在することで、問題が解決され、豊かになった理想的な未来の社会」を思い描くことが重要なポイントになります。

3の、可視化して周囲に計画を伝えていく表現作業も、正しくおこなわなければなりません。

投資判断やエンジニアリングにおいて基準となるものだからです。