「寄りかからないでください」の張り紙が語るもの
自宅の近くにいい飲み屋があったらいいな、と思って過ごしてきた人生でした。これまで住んだ街は、どこもいい飲み屋があった。
というか、いい飲み屋がある街を選んで住処を決めてきたのかもしれない。よそで飲んでいても、最後はあそこに行こうかなって思うだけで、最寄り駅に足が向かう。
自宅の近くに、いい飲み屋を持てば人生は豊かになる。今日はそんなお店のお話。
南武線の鹿島田という駅は、武蔵小杉と川崎のちょうど中間にあります。
南武線は、もともと砂利を運ぶために敷かれた路線だというから、その庶民性は推して知るべし。通学に利用していたから沿線の雰囲気はなんとなく知っているけど、鹿島田駅の改札を降りたら目の前にタワマンが建っていて、高級な街に変わっていることに驚きました。
昔はのんびりとしたいい街だったんです。最近じゃ住宅価格も高騰していると聞きましたが、街全体がちぐはぐな感じも受けます。
とはいえ、セレブと庶民がせめぎ合う汽水域には、きっといい飲み屋があるに違いありません。
今回お邪魔した『夢中』という素敵な名前のお店は、鹿島田駅から徒歩2分。駅前は整備されているけど、ちょっと歩けば昭和めいた建物があって、酒飲みレーダーがググッと反応したわけです。
なんだか一昔前の武蔵小山みたいだ。『夢中』は外観も内装も気取ってなくて、好感がもてます。街が移り変わろうとしているけど、いい意味で時代を追わない感じが愛しいんだ。
誰もリニューアルしてほしいとは思ってないんだろうな。実家みたいな懐かしさが飲んべえは愛しいんです。
店に入ると、カウンターとテーブル席があって、カウンターがおそらく常連さんの指定席で、顔見知りらしき3人がギャンブル紙を片手にあれこれ語っています。
映画のエキストラかと思うくらい、100点満点を差し上げたい立ち飲み屋の常連さんたち。
ぐるっと店内を見渡せば、グランドメニューは黄色で、その日のメニューはホワイトボードに書いてあるようですね。さて何を飲もうかしら。
最初はホッピーからいきましょう。最近、仕事が減ってしまって苦い酒を飲みたい気分だったんです。そんなわけで乾杯。仕事をしないで飲む酒もうまい!
私の後ろのガラス戸には「寄りかからないでください」と書いてありました。その昔、この場で何があったか一発でわかる、こういう貼り紙が大好き。
私も飲み過ぎには注意します。