陸上生活での“進化”は起きるのか?

スタンデン博士らがポリプテルスを育てたのは陸上である、と先ほど書いたが、正確には、水がほんの少ししか入っていない水槽の中だ。

そして、水槽の底には小石が敷き詰めてある。ポリプテルスは濡れた小石の上で、体を完全に空気中に出して、生活していたのである。

こうした“陸上で”111尾のポリプテルスを8か月間育て、水中で育てたポリプテルスと比較した。その結果、陸上で育てた個体は骨格が変化し、胸びれを使ってうまく歩くようになったと言う。

これはとても面白い実験だが、さらに先まで考えてみよう。つまり、私たちの頭の中で、思考実験を続けてみよう。仮に、この先もずっと子々孫々まで、ポリプテルスが陸上で生活し続けたらどうなるだろうか。

陸上のポリプテルスは、胸びれをよく使いながら成長するので、水中で成長したポリプテルスよりも胸びれが発達した成体になる。しかし、この時点では、水中のポリプテルスと陸上のポリプテルスのあいだに、遺伝的な違いはない。

ポリプテルスの胸びれが発達した理由は、いわばトレーニングをしたからであって、遺伝子が変化したわけではないからだ。

さて、陸上のポリプテルスは胸びれが発達しているけれど、それぞれの発達の程度に少しは違いがあるはずだ。胸びれが少し発達したものから大きく発達したものまで、いろいろなポリプテルスがいるはずだ。

もし、まったく同じトレーニングをしたとしても、胸びれの発達の仕方には違いが出てくる。それは、それぞれのポリプテルスごとに遺伝的な違いがある(遺伝子などに変異がある)からだ。これはヒトの場合も同じだ。

10人の選手にまったく同じ共同生活をさせて、さらにまったく同じトレーニングをさせてから100メートル走をさせても、10人の選手のタイムはそれぞれ違ったものになるだろう。

▲同じトレーニングをしたとしてもタイムはそれぞれ異なる イメージ:PIXTA

それぞれのポリプテルスには遺伝的な変異があり、そのため胸びれの発達の程度にも違いがある。

そういうポリプテルスのなかで、より胸びれが発達しているポリプテルスはエサのところまで速く歩いていけるので、エサをたくさん食べられて子どもをたくさん残せるとしよう。その場合、自然淘汰によって胸びれが、より大きいポリプテルスが増えていく。

仮に、胸びれを大きくする遺伝子があったとすれば、胸びれを大きくする遺伝子を持つポリプテルスが増えていく。

そうして何世代か交替するうちに、陸上で暮らすポリプテルスの胸びれは大きくなっているだろう。そして陸上で暮らすポリプテルスは、胸びれを大きくする遺伝子を持っていることだろう。

これは進化である。

なぜなら陸上のポリプテルスは、水中のポリプテルスとは遺伝的に異なる集団になったからだ。つまりポリプテルスは、自身の生活の仕方を変える(=陸上で生活する)ことによって、進化の方向を変えたのである。