もしも生命の歴史をリプレイしたら、人類ではなくて別の知的生命体が、地球で進化したかもしれない。たとえば、もしも恐竜が絶滅しなかったら、どのような進化を遂げただろうか――。分子古生物学者にしてベストセラー作家・更科功氏が、恐竜の進化の謎に迫る。
※本記事は、更科功:著『未来の進化論 -わたしたちはどこへいくのか-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
古生物学者が考えた恐竜人間とは?
生命の歴史をリプレイしたら、人類ではなくて別の知的生命体が、地球で進化したかもしれない。そんな可能性を考えたひとりが、カナダの古生物学者であるデイル・ラッセル(1937~2019)だ。
ラッセルは、もしも恐竜が絶滅しなかったら、どのような進化を遂げただろうかと考えた。
そして、トロオドンという大きな脳を持っていた恐竜をモデルにして、高度な知能を持つように進化した恐竜を想像したのである。
トロオドンは体長約2メートルの小型の恐竜である。前肢の3本指のうち、1本が他の指と向かい合っていたため、ものを掴むことができたと考えられる。大きな眼が正面を向いていたので、立体視もできたはずだ。そして、脳も大きかった。
トロオドンの体重は約50キログラムと見積もられているので、私たちヒトと同じか少し軽いぐらいである。しかし、脳は約50グラムと見積もられているので、私たちの約1350グラムと比べるとかなり小さい。
それでも、現生のどの爬虫類よりも大きく、おそらく恐竜のなかで、もっとも高い知能を持っていたと考えられている。現生の鳥の平均的な知能ぐらいは、あったのではないだろうか。
そして、その後の進化で脳がさらに大きくなったら、ついには私たちのような知的生命体になったのでは、というわけだ。
ラッセルの恐竜人間を見ると、体には鱗があり、顔も不気味だが、体型はほぼヒトと同じで直立二足歩行をしている。でも、ここまでヒトに似ているのは不自然ではないだろうか。それについて、少し検討してみよう。