もしも魚を陸上で育てたら、歩く以前に呼吸ができなくて死んでしまうはずだ。しかし、じつは魚のなかには、エラだけでなく肺も持っているものがいるのだ。2014年にカナダで行われた衝撃の研究結果を、分子古生物学者・更科功氏が解説。はたして魚は歩けるようになるのか!?

本記事は、更科功:​著『未来の進化論 -わたしたちはどこへいくのか-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

エラで呼吸している魚が肺を持つ理由

2014年に、カナダのエミリー・スタンデン博士らが興味深い研究を発表した。ポリプテルスという魚を陸上で育てたら、上手に歩くようになったと言うのである。

魚が陸上を歩くなんて冗談みたいだけれど、これは真面目な話である。とはいえ、もしも魚を陸上で育てたら、歩く以前に呼吸ができなくて死んでしまうのではないだろうか。

通常、魚はエラを使って水中で呼吸をしている。しかし、じつは魚のなかには、エラだけでなく肺も持っているものが結構いる。金魚が水面に浮かんできて、口をパクパクさせることがあるが、あれは肺を使って空気呼吸をしているのだ。

ポリプテルスは、そのなかでも特に肺が発達した魚なので、空気呼吸だけでも生きていけるのだろう。

▲上手に歩けるようになった魚「ポリプテルス」 写真:PIXTA

それにしても、水のなかに棲んでいる魚に、どうして肺が必要なのだろうか。

現在の多くの魚は、硬骨魚類というグループに属している。ポリプテルスや金魚も硬骨魚類だ(サメやエイなどは、全身の骨格が軟骨でできている軟骨魚類である)。

硬骨魚類の血液は、心臓から送り出されると、まずエラを通り、それから全身を回って再び心臓に戻ってくる。まずエラで血液に酸素が取り込まれ、その血液が全身を回ることによって、体中の細胞に酸素を届けるのである。

うまい方法に思えるけれど、一つ問題がある。

心臓は多くの酸素を必要とする器官なのに、心臓に戻ってくる血液は全身を回ったあとの血液だ。つまり酸素の少ない血液だ。そのため心臓は、あまり酸素をもらうことができない。これは、激しい運動をするときに深刻な問題になってくる。

激しく運動すれば、体の細胞が酸素をたくさん使う。すると、心臓に戻ってくる血液中の酸素は、ますます減ってしまう。激しく運動すればするほど心臓は多くの酸素が必要になるのに、激しく運動すればするほど心臓に届けられる酸素は減ってしまうのだ。

釣り上げられた魚が激しく暴れると、すぐに死んでしまうことがあるのは、このためである。