最適な呼吸法を自然に選択できる体を作る
そして話題の「全集中の呼吸」ですが、「24時間、朝も昼も寝ている間も全集中の呼吸」というのは、不可能です。「全集中の呼吸」がどんなものなのかはさておき、どんなに優れた呼吸法であっても、シチュエーションに関わらず、つまり寝ているときも戦っているときも、まったく同じ呼吸を続けることはできませんし、またそれが「体にいい」「活動時のパフォーマンスが上がる」ということではないのです。
「いつもこの呼吸法でいい」という「正解」は、実はありません。呼吸の仕方を変えることによって人間の体、脳は変化し、集中力が増したり、リラックスしたりしますが「24時間興奮状態」も「24時間リラックスしっぱなし」も、どちらも、けっしていいことではないからです(炭治郎たちは、とにかく鬼と戦わなくてはならないのですから「体に悪いですよ」などと突っ込んでも仕方がないのですが)。
呼吸というのは、自分の意志でコントロールできるものですが、無意識のうちにも変化するものです。ところが悪い呼吸法が習慣になってしまうと、本来は状況に合わせて変化しなくてはならない呼吸が、常に悪いものに固定されてしまいます。
つまりコントロールしようとしても、リラックスすべきときにも緊張状態を招く呼吸になってしまう、あるいは集中して力を出すべきときに注意力が弱まる呼吸になってしまう、ということです。
呼吸力が落ちることは、集中力の低下、体力の低下、体調の悪化、姿勢の悪化はもとより、免疫力の低下にもつながり、さらにうつ病などの発症にも関わることがわかっています。
悪い呼吸がクセになってしまえば、意識的にリラックスできる呼吸をしようとしても「できない体」になってしまうのです。呼吸と自律神経、ホルモン分泌、脳の働きは非常に密接な関係にありますが、意識してコントロールできるのは呼吸だけです。
しかし、その呼吸がコントロールできないのは、呼吸に関係する筋肉などが衰えている、うまく動かせない状態になってしまっているためで、その理由は日常の呼吸の悪いクセや姿勢、さらにはストレスや食生活などさまざまです。
特に新型コロナウイルスの感染拡大によるマスク生活で、口呼吸になってしまう人が非常に増えています。さらに外出自粛による運動不足、そしてリモートワークでのパソコン作業が増えたことから常に背中が曲がりがち、さらに肥満による睡眠時無呼吸症候群も増えています。
大切なのは、状況に応じて最適な呼吸を自在に選択できる「体」を作ることです。それが、私が考える「全集中呼吸法」と言っていいのではないかと考えています。
『鬼滅』の「全集中の呼吸」は、交感神経を非常に高い状態に保ち続け、常に心身ともに闘争・興奮状態に置くことを目指しているようですが、いわばアスリートの世界でよくいわれる「ゾーン」をイメージし、それを作者は「全集中」と呼んだのではないかな、と思います。
たしかに呼吸法によって一時的に心身を興奮状態にすることは可能です。しかし、「ゾーン」とは、単なる興奮状態ではありません。ゾーンに入った状態のアスリートは、集中力は非常に高いけれど、呼吸数は少なく、心拍も遅い状態で競技に入り、競技中は状況に応じて適切に心拍数や呼吸量が増えたり、戻ったりということをしているのです。
これは意識的にもできますが、ほとんど無意識に選択することも可能になります。そのためには、やはり日常的なトレーニング、それによる習慣づけが非常に大切です