はじめまして、建築漫画家の芦藻彬と申します。

建築がテーマの漫画を執筆しながら、大学で建築学を浴びておりました(8年間も笑)。

この世は無数の名建築であふれています。「ただ街を歩く」、これだけで立派な娯楽になってしまうくらいです。建築はさまざまな要求や制約が複雑に織り重なってできており、形や仕上げはその建築の成り立ちや用途、さらには街の歴史といった事柄を実に雄弁に語ります。

そのなかでも、全てのパーツが噛み合ったかのような……、一眼見るだけで、その調和と秩序が伝わってくる建築というのは、格別に美しいものです。

しかし、なかには非常に現実離れしており、一見しただけでは全く何がなんだかわからない、不思議な魅力を持った建築があります。最初はその見慣れなさに「変だな」「ナンジャコリャ!!」と思うのですが、どこか不思議と惹きつけられるものがある。

単なる機能だけではなく、かといって彫刻作品ともいえない、現実と非現実の狭間に建つかのような、不思議なバランスを持つ建築……。

そういったものは、どんなに眺めていても飽きません。

ここでは、建築家が何かの境地に至ってしまったかのような「覚醒」したデザインの建築を取り上げ、その謎とデザインの妙を紐解いていこうと思います。

ル・コルビュジエ -近代建築3大巨匠-

ル・コルビュジエ※1という建築家をご存じでしょうか。「近代建築3大巨匠」の1人で、2016年に上野の「国立西洋美術館本館」を含めた彼の作品群が、世界遺産に登録されました。

▲ル・コルビュジエ イラスト:芦藻彬

モダニズム※2の父と称されるル・コルビュジエが建てた建築は、それが持つ機能性・芸術性ともに名作揃いです。しかし、なかには一見しただけでは理解不能な、不可思議な魅力を持つ建築があります。

それが、晩年の傑作「ロンシャンの礼拝堂」です。

ぐにゃぐにゃとした外観、無秩序に見える窓、奇妙に分厚い屋根……。

何かに取り憑かれ「覚醒」してしまったかのような、ときに不安すらも感じさせる強烈な魅力を持った建築が、フランスのとある田舎町、緑豊かな丘の上に鎮座しています。

コルビュジエは、いかにしてこのような奇妙な造形を練り上げられるに至ったのか。不可思議な魅力の正体を探っていきます。