オランダでは、マスクの着用がほぼ義務付けられていないなど、コロナ禍でも人々の行動は極力制限されていない。首都・アムステルダム在住の筆者が、日本人とはかなり違った「自由」に対するオランダ特有の考え方について、体験的考察とともに、世界でも特異に見えるオランダ独自の新型コロナウイルス対策の実際をレポートする。

▲アムステルダムのダム広場。かつては観光客で賑わっていたが寂しくなった

全ては石油危機以来の首相会見から始まった

私はオランダのアムステルダムで暮らしている。かねてより務めてきた物故写真作家のアーカイブ活動が、実りをもたらす形で海外での活動が増え、展覧会の開催や出版物刊行のために日本とヨーロッパを往復する機会が増えていた。そこで妻と話し合い、住み慣れた東京から飼い猫1匹を引き連れ、夫婦でオランダに移住したのが2018年の暮れだった。

新型コロナウイルスが中国で猛威をふるい始めた2020年の始め、ヨーロッパはまだ“対岸の火事”という感覚だったと記憶している。私自身、中国湖北省の武漢で道すがら突然倒れる人々の姿を報じるニュースを横目にしながら、2020年2月の中頃まではユーロスターでロンドンを訪れたり、あるいはアムステルダムに訪れた業界関係者と会って話し合うなど、大陸に住むメリットを最大限に活かしながら日常を過ごしていた。

しかし2月末に、オランダで初の新型コロナウイルス感染者が見つかると、そこからの展開は早かった。2週間後には感染者が500人を超え、さらに1週間後には1500人を超えた。オランダの人口は約1700万人と、日本人口の1/7程しかいないことを考慮すると驚異的な増加率を見せていた。

そして3月16日、ルッテ首相がテレビ番組にその姿を現し、新型コロナに関するスピーチを敢行。オランダの首相がテレビ放送を通じてスピーチを行ったのは1973年の石油危機以来であり、実に半世紀ぶりのことだ。それは事態の深刻さを象徴していた。

▲2020年のロックダウン時には、アムステルダム中央駅から続くメインストリートですら人の姿が消えた

緩やかな行動制限をとった新型コロナ対策

ルッテ首相がスピーチで語ったのは、後に「インテリジェント・ロックダウン」(合理的ロックダウン)と命名された、オランダ独自の取り組みについてだった。

人々の行動を極度に制限しないことで経済や生活を縮小させることなく、それと同時にウイルス拡大をコントロールしながら、集団免疫の獲得を目指そうという対策で、かねてより自己免疫力の獲得に意識が高いオランダらしい発想とも言える。

例えば隣国のフランスが同日に発表したロックダウンは、必要最低限以外の外出を禁止するもので、1日の外出は外出許可証を携帯したうえで1回1時間、自宅から1km以内に限られ、違反者には罰金が課せられるという厳しい内容だった。

それに対してオランダのインテリジェント・ロックダウンは、1.5mのソーシャル・ディスタンシングを徹底すること、そして自宅で極力過ごすように求めるものだったが、それらはあくまでも推奨に過ぎず、判断は個々人に委ねられた。人々の行動を極力制限しないという点で、他国のロックダウンとは一線を画すものとなった。

▲ソーシャルディスタンシングを喚起する道端のサイン