本物の政治家としての秀吉を知ってほしい

今、日本は世界でもっとも停滞した国ですが、日本を近代化した秀吉の仕事が軽く見られていることと、この低迷は無関係ではありません。

しかも近年、信長や家康については、いい伝記も文学作品も出ていますが、秀吉についてはあまりありません。

今の日本が求めているのは、気に食わないものを「毀(こわ)す」とか、じり貧の安定を図る「守成」でもないはずです。その意味でも、前向きに新しい日本を創っていく「創世」を実現した、本物の政治家としての秀吉の「等身大の姿」をもっと知って欲しいと思っていました。

もうひとつ、最近の歴史学者などの仕事で気に入らないのは、歴史上の人物の虚像を剥がすといって、悪い面ばかりを意地悪く描写することです。

秀吉についても「明るいとか人たらしなんて嘘だ」「残忍だ」「薄情だ」など言いたい放題ですが、それならどうして、異例の出世して天下まで取れたのかを説明できないのでないでしょうか。

政治家でも軍人でも経営者でも、成功した人はそれなりに魅力的だし、そうでなければ出世などできませんからおかしいと思いますし、仕事や人生の参考にもならならないと思うのです。

そこで、新しく始める連載では一工夫して、秀吉夫人の「北政所寧々の回想」というかたちで、秀吉の生涯とその時代を描いてみようと思います。戦国という時代を思う存分に夢を見ながら生きた夫婦と、それをとりまく人たちを等身大で描く物語にしたいと思います。

小説ではありません。フィクションなしの、歴史をいわば「私の履歴書」のように楽しんでもらおうという新しい試みです。

また、女性の眼から見るということなので、わたしたち夫婦の共同執筆にしました。これまでも、浅井三姉妹・井伊直虎・篤姫という女性を主人公にした本で、同様のかたちで仕事をしていますので、お楽しみに。

というわけで、次回からは「寧々さん」にバトンタッチしたいと思います。

▲『絹本着色高台院像』(高台寺所蔵) 出典:ウィキメディア・コモンズ

≫≫≫ 令和太閤記「寧々の戦国日記」は、来週木曜日6月3日から始まります、お楽しみに!

<著者紹介>
八幡和郎
1951年滋賀県大津市生まれ。東京大学法学部から通商産業省。フランス国立行政学院(ENA)留学、パリJETRO産業調査員、通商産業省北西アジア課長、情報管理課長、国土庁官房参事官など。徳島文理大学教授・国士舘大学大学院客員教授。歴史家・評論家。『令和日本史記 - 126代の天皇と日本人の歩み』『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』など歴史や政治を中心に著書多数。

八幡衣代
1961年生まれ。東京都出身。日本女子大卒業後、東京大学大学院修士修了(建築学)。東京都庁勤務ののち渡仏。建築・歴史・女性問題などの著作あり。和郎・衣代共著に『「篤姫」と島津・徳川の五百年』『浅井三姉妹の戦国日記』『井伊直虎と謎の超名門「井伊家」』。