Jリーガーとして戦力外通告を受けたのち、父親が経営するリユースショップに入社。やがて「なんぼや」などを展開するバリュエンスグループを立ち上げ、マザーズ上場へと導いた起業家・嵜本晋輔さん。嵜本さんは「失敗をどう捉えるかで人生は変わる」と主張してきた。
「もちろん会社が傾くような失敗はしちゃダメです。会社が傾くような失敗をしないように毎日、小さな失敗を積み重ねているんです。他社より3倍多く失敗できれば、成長できるチャンスが3倍生まれるということですから」
思い描いた通りにいかないのが仕事だと思っている
嵜本さんは、これまでも失敗することの必要性を語ってきた。失敗を繰り返すことで、個人として会社として成功や成長できる確率が上がると信じているからだ。もし失敗のない会社があるとすれば、それは「目標設定が低いからではないか」とさえ言い切る。
しかし世間では、失敗した時点で評価される。平社員なら上司にとがめられる。やがて成長や成功へとつながるとはいえ、そのときが訪れるまで我慢するのは、経営者としてもつらいのではないだろうか。
「僕は思い描く通りにいくことのほうが珍しいと思っているんです。みんな、思い描いた通りにやることが仕事だと思っているんでしょうけれど、僕は一種、悟っているところがあって、失敗してもダメージがないんです。『はい、やっぱり失敗したでしょう?』みたいな捉え方ですね。だから社内でも、意識的にそういう雰囲気になるようにしています」
嵜本さんはそう言うが、会社が成長するにつれて、プレッシャーは重く自身にのしかかっているはずだ。だが、その点についても「ポジティブシンキング野郎」で居続ける強さがある。
「プレッシャーを感じられる立場にいられて幸せだなと思っています。上場していなければ株主に説明する義務もないわけですし、株主総会で緊張するようなことも経験しなかったでしょう。上場企業の社長だからこの経験ができていると考えると、僕は幸せだなと思いますね」
では、小さな失敗を繰り返し、やがて成長へとつなげるために嵜本さんが心がけていることはなんだろうか?
「行動指針は『つかむために、手放せ。』です。多くの人は立場だとか役職を獲得すると、それを手放すには多くの不安や恐れが生じるものです。だからほとんどの人は手放さない。けれども、手放せない人は周りから『あの人は自信がないんだな』と見透かされるわけです。
それに、両手がふさがっていたら、何もつかめません。片手だけでもフリーにしておけば、転がってきたチャンスをつかめるんです。だから、しがみつくことって個人にとっても会社にとっても、すごくリスクの高いことなんです。僕は次の新しいもの、例えば会社や個人の成長を得るために、弊社でいえば既存のビジネスモデルであっても、ときには積極的に手放していくことを意識しています」
バリュエンスを多くの人から愛される企業にしたい
偶然なのか意図してのことなのか、嵜本さんの考えはバリュエンスのブランド品や貴金属を買い取る事業と相通じるところがある。新しいものを手に入れるために、手放すことが必要なこともあるというわけだ。
「成長し続ける企業と衰退した企業とを見比べると、結局は変化による適応力なんですよね。手放すという意思決定や経営判断ができなかったところが衰退していく。僕たちも、いつなんどきそうなるかわからない。だから第2、第3の柱を作るとともに、今の事業を再定義するようにしています。会社が成長しているからこそ、再定義ができるのだと思っているので。そんなときにこそクリエイティブが発揮できるんだ、と。そこは危機感を持ってやっていますね」
一方で、利益だけを追求することは「もうやめる」と嵜本さん。今後、消費者はそんな企業の商品に手を伸ばさなくなるだろうと読んでいる。
「利益追求を第一にすることのしわ寄せが、いま、地球環境に響いているわけです。大量生産・大量消費という、地球のことを考えてこなかったツケが、気候変動につながってしまった。だから僕たちは『あの会社に売れば、地球にちょっといいことができる』という仕組みを作っていかなければならない。単純にモノとお金を交換する機能だけを持っている会社は、腐るほどありますからね」
リユース業でそうしたブランドを作りあげることは簡単ではないとしつつも「消費者ひとりひとりの価値観が変わってきている」という嵜本さんは、バリュエンスをスターバックスのように愛される企業にしたいという。