アスリートたちが露頭に迷ってしまうかもという不安
コロナ禍という「土壇場」のなかでは、多くの業界と同様、バリュエンスにもさまざまな影響があった。
「僕たちの収益のメインであるオークション事業は、これまでオフィス内に併設されたオークションルームに数百人の業者を集めてやっていたんです。しかし新型コロナの影響で、2020年4月からはすべてオンラインでのオークションに切り替えました。これが当初想定していたよりもずっと早く実現できたので、ピンチはチャンスではないですけれども、ピンチをピンチのまま終えなかった結果、3年後、5年後の成長が確実になってきたと思います」
新型コロナがきっかけという点では、嵜本さんは「Hattrick(ハットトリック)」というサービスを始めた。これは、アスリートが実際に使用した道具やユニフォームを、ファンにオークション形式で販売するサイトだ。
「新型コロナの影響で、アスリートが路頭に迷うんじゃないかと思ったんです。クラブにとって人件費は大きなコストのひとつでもあるので。だからクラブにいくらかでも収益として提供できる仕組みがあれば、ひとりでもふたりでも救えるのではということで動き始めました。
最初はつながりがあるガンバ大阪の商品だけだったんですけど、人づてに紹介してもらって、オンラインで『初めまして』というところからビジネスモデルの説明をして。陸上連盟とか柔道連盟、K-1の商品なんかも扱えるようになり、この1年で1億円ほど皆さんに還元させていただくことができました」
ただ、こちらはサービスとしてはまだ収益が確保できているわけではない。「それでも正しいことをやっていれば、いつか返ってくると信じて」続けるつもりだと嵜本さんはいう。
これからもポジティブシンキング野郎として突き進む
著名人が愛用した物品のオークションサイトは、アスリートだけでなく、エンターテインメント業界にも拡大できる余地があるとみている。
「ミュージシャンがライブで着用した服とかギターのピックとか、そういったモノにも思いがあるわけで、ファンにとってはとてつもない宝物でしょう。また、僕たちはもともと捨てる予定だった物を商品化しているんですよね。例えば1シーズンだけしか使わないタペストリーだったり、選手の等身大パネルだったり。お金かけて作って、1年だけ使って、しかも処分するときにもお金がかかる。
そこへ僕たちが『こうしたら、お金に変わります』というのを企画提案しているわけです。これは地球環境にも、すごく良い取り組みでもあると思っています。サステナブル(持続可能)な観点からも、まだまだ成長の余地があるんじゃないかと思ってますね」
「自分はたまたま恵まれていただけ」という嵜本さんは、現役アスリートが置かれた環境と、セカンドキャリアを憂慮している。
「選手とクラブがフェアなかたち、相思相愛のような状況を作ることができたらいいなと思います。僕は元アスリートでありながら、今は事業家・起業家です。だからアスリート目線と経営者目線の両方を兼ね備えている。アスリートの思いもわかるし、クラブの立場もわかる。ここをフェアにしていくというのが僕のテーマなんです」
まさにこれが次の「土壇場」となりそうだが、嵜本さんはきっとポジティブシンキング野郎として立ち向かっていくのだろう。