子どもにもたらす具体的な問題は男女で違う

両親の葛藤が子どもに及ぼす具体的な影響として、身体的緊張、恐怖や不安や悲しみや怒りといった一次的な感情があります。これらから、闘うか逃げるか固まるか、という反応に続き、頭痛や腹痛などの身体症状を呈したり、慢性的な過覚醒状態、食欲・睡眠の異常、自律神経系・免疫系の不調といった医学的な問題をも生じさせます。両親の葛藤にさらされる子どものうち、小中学生のほとんどは学校生活で何らかの問題を呈します。 

最も多いのは集中困難による学力低下です。身体的な不調を訴えて頻回に保健室を利用したり、不登校になる子どももいます。気分や認知の否定的な変化と慢性的なストレスによる欲求不満耐性の低下から、他の児童生徒とのトラブルも増加します。

他者に対する攻撃性は、両親の葛藤のモデル学習・ ポストトラウマティックプレイ〔トラウマ場面を再現する遊びを通してトラウマ記憶を処理しようとする無意識的な試み〕・気分変調・自暴自棄的な衝動性・他罰傾向・承認欲求・同様の境遇にある友人からの同調圧力や解離、といったさまざまな要因の組み合わせによって生じます。

学校外でも、万引きやその他の反社会的行動が見られることもあります。これらは、ADHDの不注意・多動・衝動性や、自閉スペクトラム症におけるこだわり・感覚過敏・他者の内面の不理解といった症状と誤解されやすく、愛着形成不全と合わせて、発達障害との誤診を招くことにつながります。 

男子が一般的に外向きの問題行動を示すのに対して、女子は表には現れにくい行動を示しやすく、 その最たるものは過剰適応で、一般的には「問題」行動とは考えにくく、教師や調査官によっては「概ね適応しており、何ら問題はない」と評価することになります。

しかしながら、過剰適応は子どもがその環境での生存確率を上げるための無意識的な戦略であり、親の期待に応えることで親の注目と承認を得ようという表面的な目的のほか、親の関心を他方の親への攻撃から自身に向けさせることで、家庭内に和を保とうとする試みであることがあります。

知的な能力や運動・芸術の能力が高ければ、しばらくの間は過剰適応の努力こそ優先されますが、 多くはやがて限界に近づきます。それに伴い小学校高学年から高校生までの女子では自傷行為が見られやすくなります。

直接的な体験としては、不安の一時的な解消や不安からの逃避なのですが、賞賛に値しない自分への罰としての意味や、親に認められず希薄になった自己存在感の確認としての意味があると解されることもあります。

同居親(この場合、多くは女子に対する母親)が精神的な問題を抱えている場合に特に多く見られ、リストカット・万引き・摂食障害、そしてときに性非行がセットになることもあり、いずれも依存の問題に絡みます。 

▲表向きには問題行動がないように思えても限界に達すると… イメージ:PIXTA