名将・前田三夫監督に「いらない」と言われて

「ひとつ上の3年生がいたときも、レギュラーのうち7人が2年生でした。だから3年生が抜けても、僕らは『東東京大会の優勝候補』と言われていたんです。ところが、秋大会の予選ブロックで二松松学舎付属高校とぶつかった。これは『事実上の決勝戦』ともいわれた大事な試合だったんですが、ここで僕らはコールド負けをしたんです」

翌日から徳田たちの学年は練習に参加させてもらえなくなった。前田監督は、ひとつ下の後輩たちを中心にしたチームづくりを始めたのだ。

ここで動いたのが同級生のキャプテン・奈良だった。奈良はレギュラーの正捕手だった笹沢と、ベンチ入りしているものの補欠のままだった徳田に声をかけ、ミーティングを開いた。

「このままだと高校最後の1年間がムダになってしまう。力を貸してくれという話があったんですね。それから毎晩3人で話し合って。最終的には『やっぱり甲子園には行きたい』という話になったんです」

まともに練習に参加させてもらえない徳田たちが甲子園に行くには、どうすればよいのか。キャプテン・レギュラー・補欠の3人が、それぞれの立場から思いのたけをぶつけた。

そして出た結論が「後輩たちを勝たせるしかない」だった。後輩たちが勝って甲子園に行けば、事実上、自分たちも「甲子園に行った」といえるだろう。そう考えたのだ。徳田たちは同級生を次々とミーティングに誘い、思いを共有していったという。

「もちろん、それに納得いかないメンバーもいましたし、それで辞めていった者もいましたけど、それでも『そうするしかないだろう』と。僕ら新3年生は、後輩たちのためにとにかく練習を手伝う、サポートするということに振り切っていったんです」

すると、何が起きたか。ある意味プレッシャーから解放された徳田たちは、サポートとはいえ野球を楽しめるようになった。たまに練習に参加させてもらえると、伸び伸びとプレーできるようになった。「あいつらの目はまだ死んでない」。前田監督はそう思ったのではないかとトクサンは振り返る。

やがて監督は、後輩たちが中心だったチームに、徳田たちの代の選手を入れていくようになった。もともと「優勝候補」と言われたメンバーだ。実力は申し分なかった。同級生同士で、感情をぶつけあったことで、彼らはひとまわりもふたまわりも成長していた。

▲2002年の夏、帝京高校野球部は甲子園大会への出場を果たした (本人私物)

野球YouTouber「トクサン」としての活動

「あのとき、僕らが『一揆』を起こさなければ、腐ったままの1年間だったのでしょうね」

徳田たちは「土壇場」をこうして乗り切ったのだった。徳田はキャプテン・奈良のリーダーシップを評価する。

「奈良はすごかったですね。二松松学舎に負けた日には、監督の家まで行って『明日から日本一の練習をしてください』と、お願いしたとも聞きました」

チームはさらにまとまりを見せ、2002年の夏、帝京高校野球部は甲子園大会への出場を果たした。徳田はベンチ入りのままだったが、レギュラーをサポートすることの大切さを充分に学んでいた。

「僕という存在は、ベンチで騒がしい分にはチームにとって良かったんでしょう。僕自身、最高のベンチウォーマーだったと思っています」と笑うが、一方で、当時の自身に対する評価は厳しい。

「ただ、いま僕が監督の立場だったとして、当時の徳田正憲という選手がいるとするなら、やっぱり試合では使わないですね。足が速かったり守備が機敏だったり、意外性のあるバッティングをしたりっていうのはあるんでしょうけど、やっぱり使わない。帝京高校には、他にもちゃんとした選手がいっぱいいます。彼らが徳田に引っ張られてないようにするにはどうしたらいいのかを考えると、そうなりますよね」

トクサンが自身のそういった点を自覚するようになるのは、帝京高校を卒業後、創価大学に進んでからだった。トクサンは強豪・創価大学野球部でキャプテンを務め、チームを全国ベスト4に導いている。

現在の野球YouTuberトクサンとしての活動を、前田監督は知っているという。

「前田監督は、けっこう新しいものが好きな人なので、もともといろんな人の動画を見ていたみたいです。そのなかで、たまたま僕の動画を見てくれたらしくて。僕が帝京高校に入って1年目の話をした動画を見て、前田監督は『こいつ、よく知ってるなあ』って感心してたようです」

動画ではメガネをかけ、薄暗い居酒屋で話しているせいか、トクサン=徳田正憲だとわからなかったらしい。

「『なんでこいつは、こんなに詳しいんだ』って話になったとき、たまたま隣にコーチがいたらしいんです。そのコーチは、帝京高校で僕のひとつ下だった後輩なんです。『あれ、これ徳田さんじゃないですか?』となって初めて監督は『なにー!』って、びっくりしていたっていう話を聞きました(笑)」

▲現在も野球チームの主将としてチームを引っ張っている

プロフィール
 
トクサン
1985年3月18日生まれ。ザ・野球エリート。小学校3年生の時にソフトボールを始めると、中学時代は軟式野球に熱中。その後、名門・帝京高校に入学すると、俊足を武器に1年生の秋からベンチ入り。3年夏には第84回全国高等学校野球選手権大会に出場を果たす。創価大学に入学後、4年時にはキャプテンに就任し、全日本大学選手権でベスト4に進出。自身もリーグ戦で首位打者、盗塁王、ベストナインに輝くなど活躍し、プロ野球のドラフト指名者候補にリストアップされる。惜しくも指名漏れしたのち、社会人となるも、すぐに退社するなど苦難の時期もあったが、2016年8月23日 『トクサンTV』がスタートすると、2018年5月には再生回数1億3000万回突破、最大月間1500万再生、チャンネル登録者数60万人を記録するなど日本一の野球チャンネルとなる。所属している野球チーム『天晴』では主将であり絶対的存在でもある。