“ビリギャル”の生みの親で、吉本興業ホールディングスの社外取締役でもある坪田信貴さんは、いまも教育に携わっており、7月に発売されたばかりの新刊『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』の増刷が早くも決まるなど、話題に事欠かない。そんな坪田さんが講演会で感じた“日本の「土壇場」”とは? 教育の場で接している子どもたちにも伝えたいメッセージ。

会議で質問が出ないのは「マジで日本のダメなところ」

▲坪田さんの話は子どもにも大人にも通ずる心理がある

「日本の場合『周りと違うことをやらなきゃいけない』と思う瞬間ではないでしょうか」

「土壇場」について坪田さんはそう話す。授業中、教師が「質問のある人?」と聞いたとき、手を挙げられる子どもは少ない。周りの子どもが誰も手を挙げていない状況では、なおさらだ。

「そこで手を挙げるということは、異質なことをしようしていることになるからです」と坪田さんはいう。本当は聞きたいことがあっても、教師の「授業を進めたい」という空気感、周りの子たちの「そんなこと質問しなくてもいいじゃん」という空気感があるせいだ。

「これは大人になってからもそうで、コロナ禍の前に200社くらいの社長さんを相手に講演したことがありました。そこで『質問はありますか?』と聞いても、誰ひとり手を挙げなかったんです。だけど、そのあとの名刺交換のタイミングでは皆さん質問してくるんですね。それを講演のときに聞いてくれれば、ひとりひとりに同じ答えを返さなくて済むのにって思いましたね(笑)。社長さんですらそうなんです」

みんなの前で質問してくれれば情報の共有ができる。また発言する側も質問に対して真摯に答えなければと考える。しかし「空気を読む」ことが優先され、誰も質問しないまま終わってしまう。これは会社の会議でも同様だ。「そこはマジで日本のダメなところ」と坪田さんは指摘する。「会議に参加する意味があるの? って思うんですよね」

「日本の良いところっていっぱいあって。“沈没船のジョーク”でいう、日本人には『もう、みんな飛び込みましたよ』って言えばいいというのも、発展途上の段階ではすごく適していたんですね。なぜなら、みんなが一丸となって同じ場所に向かうことができるから。だけど、日本はいま成熟しきっていて、市場はこれから徐々に減退期に入っていく。そこで『みんなと歩調を合わせていきましょう』では、イノベーション(技術革新)が生まれない」

市場が小さくなっていくなかでは「批判されようとも空気を読まずにやる」ことが重要であると坪田さんは言うが、大人にできないことは子どもにも難しい。坪田さんは最新の著書『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』(SBクリエイティブ)で、この点について「日本の子どもたちの多くは可能性をつぶす“呪い”をかけられている」と警鐘を鳴らしている。

▲『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』のタイトルも特徴的だ

「タイトルの『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』っていうのは、なんでいけないかというと、理由はすごくシンプルで、そんなことはできないからなんです。『人に迷惑をかけたことは1回もありません』っていう人なんて、いませんよね。だけども親は『人に迷惑をかけるようなことは絶対にやるな』って言う。これを心理学的にいうとダブルバインドといって、子どもたちはどうしていいかわからなくなって、チャレンジしなくなってしまうんです」

「人に迷惑をかけてはいけない」というのは“消極的な道徳”だといい、欧米やアジアの他の国では「迷惑をかけるのはお互いさま」という前提のもと、だから「困っている人を助けよう」という“積極的な道徳”で動いていると坪田さんは言う。

「“積極的な道徳”だったら実行できるんです。積極的な認知だから、能動的なチャレンジもできる。認知によってすべて変わっていくんですね」

タイトルにインパクトがありますね、と伝えると「このタイトルは僕がつけたんですが、この本を新幹線のホームや書店で見かけて『おや、このタイトルは気になるな』と感じてもらえたら。子どもだけではなく、大人の成長にも役立つはずですし、移動中の新幹線の中で読めると思います」と答えてくれた。

▲ジョークを織り交ぜながら話す坪田さんの教育論には引き込まれてしまう