ミモザーヌだからこそ歌い継げる過去の名曲
その一方で、ミモザーヌには“少女特有の可愛らしさ”という言葉だけでは形容しきれないエッジもある。例えば「動かなかったこころの時計」(by みやはらにこ、いとうみにぃ、しものあやめ、たなかあかり、さかもとりるは、あんどうはな)では、メンバーが新体操のリボンとボールを持って登場、演技をしながらステージを所狭しと駆け回り、なおかつ歌うというハードなことをやってのける。とりわけ、側転やバック転を繰り返す、みやはらにこの身体能力の高さには驚かされた。
ストリート系のファッションに身を包み、アクロバティックなダンスで魅せる「扉の向こうへ」(by みやはらにこ、いとうみにぃ、しものあやめ、ともだりのあ、ろれあ)もキレのあるダンスがとても見ごたえがあるし、歌唱力の面でも「MONSTER NIGHT」(by すずきみあいムェンドワ、すずきゆい、いわなみゆうか、たぐちえみる、しものあやめ、もうりさくら、ろれあ)のように、リードヴォーカルをとるすずきみあいムェンドワの表現力の確かさなど、いずれにもプロフェショナル集団としてのミモザーヌメンバーのプライドの萌芽が垣間見えた。
また、ヨナ抜き音階の和風テイストのナンバー「いろは恋歌」(by いまもりまなか、いわむらゆきね、たかはしまお)に顕著だが、演出の広井王子氏が「ミモザーヌは『サクラ大戦』のリアル版なんです」と話していた通り、これがその世界観を最も体現していた演目だったと思う。
幕間にはメンバーによるトークもあり、2部では新加入となった3期生の4人(たなかあかり、さかもとりるは、やましたあやね、ひろせしずく)をステージで紹介するコーナーも。下は小学校6年生から上は高校2年生まで、今は一様に初々しさが勝る彼女たちも、次の公演では各々の個性を見せてくれることだろう。
また「応援歌」を歌う前には、最年長メンバーとしてみんなを引っ張ってきたきくたまことが、もうすぐ20歳になるためミモザーヌを卒団することが発表された。それから感謝の気持ちを込めた歌「ありがとうございます」を全員で披露して、18曲にも及ぶ本編は終了したのだった。
アンコールでは2曲を披露。1曲目はなんとジャズのスタンダードナンバー「ジェリコの戦い」である。私などはデューク・エイセス(昭和に活躍したヴォーカルグループ)が歌ってたなぁと思い出したりもするが、令和の今、若い女の子たちがこれをレパートリーにしているのは新鮮に感じる。こういう渋い選曲を自分たちのレパートリーにできるパフォーマンスの高さもミモザーヌの魅力だ。
ラストは団歌である「ミモザのように」を全員で歌い上げた。シンプルなメロディとしっとりしたテンポ、品のある言葉でミモザーヌのモットーを表現した曲である。ひときわ丁寧に、心を込めて歌っている様子に、少女たちがミモザーヌにかける思いが伝わってきた。曲の途中で天井からハート型の発砲スチロールシートが紙吹雪のように舞い降りてきた。近くに落ちたものを数枚拾い上げてみると、一つ一つにメンバー直筆のお礼の言葉とサインが書かれていた。こんな心のこもったことをしてくれると俄然応援したくなってしまう。
ロックンロールあり、アイドル歌謡あり、ディスコあり、ワールドミュージックありとバラエティに富んでいるのもいいし、ザ・ピーナッツやグレン・ミラーなど過去の名曲を、現代の少女たちが歌い継いでいくという趣向も、幅広い年齢層の人が楽しめて素晴らしい。
少女たちによる歌劇団というと、アイドルグループ的なものをイメージするかもしれないが、ミモザーヌは昔あった松竹歌劇団(SKD)に近い印象である。間口は広く、これからどんどんファンを増やしていける可能性を感じた。