愛犬との楽しい散歩の時間。途中までは調子よかったものの、人通りの多い道に入った途端、出会う犬や人にかたっぱしから吠えかかってしまう……。そんな「散歩中のお困り行動」への対処法を、プロのドッグトレーナーが信頼を寄せる、犬の行動学のスペシャリスト・鹿野正顕氏が解説します。

※本記事は、鹿野正顕:著『犬にウケる飼い方』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

犬の「問題行動」の原因となるもの

「散歩中のお困り行動」の対処法の前に、まずは、犬がなぜ問題行動を起こすのか――その原因を知っておきましょう。

問題行動を考えるときに大事なのは、その原因には非常にたくさんの要因が関わっているということを知り、短絡的にとらえないことです。

問題行動の原因となるものは、大きく分けると「動物側の要因」と「飼育環境の要因」の2つがあります。

動物側の要因というのは、パソコンで例えるとCPUやハードディスクのようなもので、その犬の遺伝的な要因や生理的な要因、病理学的な要因など、形のある要素をさします。

一方の飼育環境の要因はアプリケーションのようなもので、犬が生まれてから経験したことや学習したことなど、無形の要素をさします。

▲犬の問題行動の要因には2種類ある イメージ:PIXTA

動物側の要因

  • 遺伝的要因

護衛犬などは、犬種の特性として攻撃性が高い傾向があります。同じ犬種でも代々の系統による遺伝的影響もあり、ショータイプ(姿形が重視され性格は従順)・フィールドタイプ(運動や作業好きで性格は活発)などの特徴が、問題行動の要因になる場合もあります。

また兄弟であっても性格には個体差があるため、その個体の性格が飼い主の生活スタイルに合わないこともあります。

  • 生理的要因

ホルモン(テストステロン、甲状腺ホルモンなど)も行動に大きな影響を与えます。

  • 病理学的要因

身体的な疾患(泌尿器系の疾患、神経疾患など)や高齢性認知障害が行動に影響する事例も多いです。

飼育環境の要因

  • 不適切な繁殖・育種

無計画な繁殖には、さまざまな弊害や影響が出ます。幼少期の不適切な飼育や、社会化期に必要な経験が不足するケースが増えます。早期の母子分離により、犬の情緒面に影響が出る(不安や攻撃性が高まる)場合も多いです。

  • 望ましくない学習

しつけの不足や、誤ったしつけ方による影響です。犬にとって不快なことだという点に無自覚なまま、過剰な接触や体罰が行われている例もあります。同居する家族や同居犬・他の動物との相性の悪さが影響することもあります。

  • 飼い主の与える物理的環境

飼育環境の影響は大きいです。居住スペースの広さや衛生面のほか、寝場所となるクレートやケージの配置も要注意で、家の内外の音や人の出入り、家の外に見えるものも要因になります。運動不足や刺激不足(あまり外に連れ出さない)も影響します。

以上のように、問題行動にはさまざまな要因が考えられ、いくつかの要素が複合的に絡んで原因となっている場合もあります。

問題行動の原因が「動物側の要因」にあった場合、これは獣医師ら専門家でないと原因の究明と解決が難しいものです。

飼い主さん一人で悩まずに、専門家の力を借りることも検討してみましょう。

▲一人で悩まずに専門家の力を借りるのもアリ イメージ:PIXTA