「犬という動物の科学的研究は意外なほど遅れていて、ようやく2000年以降に本格化し、ここ十数年の間に飛躍的に進んでいるんです」――そう語るのは“犬の行動学のスペシャリスト”鹿野正顕氏。プロのドッグトレーナーが信頼するプロ中のプロが、最新研究で明らかになった意外すぎる犬の生態を解説します。
※本記事は、鹿野正顕:著『犬にウケる飼い方』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
時代遅れの“常識”が犬を不幸にする
いま世の中に出回っている「犬はこう飼いましょう、このようにしつけましょう」という情報の多くは、残念ながら"昭和の日本”的な「犬の常識・しつけの常識」で、いまでは時代遅れなものが多いのが実情です。
犬という動物の科学的研究は、意外なほど遅れていて、ようやく2000年以降に本格化し、ここ十数年の間に飛躍的に進んでいます。その結果、動物行動学や認知科学の見地から得られた実証データによって、いままで常識・定説とされていたことの何割かが「誤解」だったということが明らかになっています。
犬は自分を取り巻く世界をどのようにとらえているのか。どんなふうに人や周りを見て、どんなふうに考えて行動しているのか――。
その「認知」という分野での研究は、近年になってさまざまな研究成果が共有されるようになりました。以前は犬の行動時の脳の反応などを科学的に調べることが難しく、認知という分野はほぼ未知の領域だったのです。
僕が大学院で論文を書こうとしていた2006年頃でも、犬の認知・生態・行動特性といった分野の科学的研究はごくわずかで、現場での事例はたくさんあっても研究データがないため、実証するのが困難だったケースが多々ありました。
つまり、それまで「犬とはこういう動物だ」「犬はこういうときこんな行動をする」と言われてきたことの多くは、じつはエビデンス(科学的裏付け・根拠)の乏しい仮説や通説、それぞれの経験や主観というものばかりだったのです。
近年ようやく、MRIなどの最新検査機器の活用や、ホルモンや遺伝子の研究などにより、日本では麻布大学などが中心となって「犬の認知」の解明が進められるようになりました。