国内で新しい薬を開発しやすい環境をつくれるか?

ところが、問題はそう単純ではなかったのです。承認までの期間が短縮・効率化され、薬は作りやすくなったはずなのですが、日本の製薬メーカーがアメリカなど海外で薬を作るようになってしまったのです。代表的なものが抗がん剤です。

アメリカのほうが市場規模も大きいため、それらの海外市場でのビジネスを優先するようにならざるを得ないのです。日本の製薬企業がアメリカで共同開発し、海外で効果が認められて使われている医薬品が、日本では手に入らないということすらあります。未承認薬の問題です。

製薬会社は、時間や資金の面でも莫大なコストをかけて薬を開発しています。たとえ日本の製薬会社が国内で新薬の開発に成功したとしても、治験の規格が日本と国際標準で異なると、海外市場で流通させるために、さらにコストがかかります。手続きが規制によって非効率だったり、国内の医療・医薬品の市場に魅力がなければ、製薬会社も国内で新しい薬を作ろうと考えなくなってしまうのです。

これもまた、病気で苦しんでいる人や、まだ治療薬のない病気を抱えている人たちにとっては深刻な問題です。また、今は健康でも、病気にかかる可能性は誰にでもあります。そのときに、他の先進国には効き目の高い薬があるのに、日本では手に入らない場合もあるのです。

▲国内で新しい薬を開発しやすい環境をつくれるか? イメージ:PIXTA

日本の製薬産業が元気をなくしている問題は、社会保障の仕組みにも原因があります。
令和3年(2021)度予算の一般会計に占める社会保障関係費の割合は33.6%で、一般的な税金の使途のおよそ3分の1にあたります。社会保障関係費の内訳で大きなものは年金と医療で、両方合わせると約75%となっており、いずれも年々増え続けています。

一方、政府の税収は無限に増えるわけではありません。無理矢理にでも取ろうとすれば、経済活動が停滞して国民生活が成り立たなくなってしまいます。すると、増え続ける部分をどう削ろうか、抑制しようかという話になります。医療費の場合、税負担抑制のためにターゲットとして狙われるのが薬価です。

日本は国民皆保険制度のもとで、医療サービスへの対価が一定の割合で税負担となっています。自己負担の割合は、75歳以上で1割、70歳から74歳までは2割、それ以外の人たちは3割です。

税金で負担する割合が大きければ大きいほど、予算に占める医療費の割合は大きくなります。すると、政府は医療費抑制のためにさまざまな手法を用いて薬価を下げようとするので、製薬会社は新しい薬を開発するだけの利益が生まれなくなってしまうのです。これでは悪循環です。

政府の予算に対して、無駄に使っている部分を改めてもらうことと同時に、国民の側ももう少しだけ自己負担を増やしていくことができれば、薬価に対する引き下げ圧力が緩和され、製薬会社が新しい薬を開発しやすい環境に近づきます。薬価の自由度は新薬の開発に直結する問題です。

同時に治験や承認の規制を緩和しつつ、できるだけ海外市場に合わせた形とすることで、効率化する努力も続けていけば、今まで治療薬がなくて困っている人や、もっと早く病気を治したい人たちに、日本国内で薬を提供できるようになることはもちろん、日本で開発された優れた医薬品を持って、世界の市場に打って出る展望も開けます。そうすれば、日本の製薬産業は良質の医薬品だけではなく、関係企業も含めた多くの人たちの雇用も作っていくことになります。

製薬産業は今でもすでに十分大きな産業ですが、より大きく強くなって、文字通り人を癒し、日本経済を癒すことに貢献できるのです。

▲日本の製薬産業はまだまだ成長する! イメージ:PIXTA