欧米のみならず、アジア圏内においても、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が遅れている日本。果たしてその大きな原因はどこにあるのか? 元・官僚であり、医師の父を持つ、政治経済評論家の八幡和郎氏が緊急提言。海外のお医者さんたちは、コロナ対策最優先で頑張っているのに、日本では医者の確保が難しい。この国ではお医者様は上級国民なのだ。

ワクチン接種を全国同時スタートしたい理由

新型コロナに対するワクチン接種が遅れている最大の理由は、ワクチンの確保が遅れていることにある。しかし、それだけではない。

前回紹介した河野太郎行政改革相の発言のなかに「都道府県知事からゆっくり進めてほしいとの要望があった。そうすれば接種体制を確認でき、全市町村で準備が整えられるからだ」というのがある。

これは意味深だ。つまり都道府県のほうが、全市町村で準備が整えられて、ヨーイドンで一斉スタートしたいから、それができるまで待って欲しいと言っているということだ。逆に言えば、すでに準備ができたところから始めることをしないでくれ、というわけだ。

たしかに市町村の行政側からしたら、隣の町より遅れたとなると批判される。去年の一律給付金でも、市町村によって配布時期に大きな差が出て、遅れたところには非難ごうごうだった。それでも、そういう批判をされないために競争で頑張ったのは良いことだったと思うが、多くの市町村長さんが嫌な思いをしたから、という理屈なのである。

だから、今度はゆっくりしてくれと言うわけだ。しかし、ワクチンは一律給付金よりさらに準備ができたところから、どんどんやるべきものだ。市町村長の面子より命を優先すべきことだろう。しかし、そういう常識は通らないのだ。

また市町村からの要望の裏には、医者側の圧力もある。誰にワクチンを接種させるかは、市町村によって対応が違う。そこで、かかりつけ医のところで行おうという所も多いのだ。特別会場など設営するのも、市町村にとって面倒だという理由もある。

しかし、ここでも医師会などは、開業医などがマイペースでやれるようにしたい。なにしろ医師会は、任意加入ということもあって、一部の開業医が嫌がることはしたくない。高齢の医者のなかには、筋肉注射(浅いところの皮下などに斜めに入れるのでなく、垂直に深く刺す)は嫌だという人までいるらしい。

ともかく、開業医に慣れないことをさせるのは大変だというのは、私も医者の子だから知っている。しかし、コロナ対策は野戦病院の様相、すなわち緊急性の高い仕事である。そんな悠長なこと言ってるときでないはずだが、ダメなのである。

また特設会場をつくると、医者や看護師の確保が難しいという。医者が自分の仕事を半日休んでまで来よう、ということにならないからだ。海外のお医者さんたちは、コロナ対策最優先で頑張っているのに、日本では休診にすると患者から苦情を言われたら嫌だ、という理由で通ってしまう。この国ではお医者様は上級国民なのだ。

年末年始に長々と休んで、その休みを邪魔されたくないから、緊急事態宣言をして病人が出ないようにしろと大騒ぎしたのは東京都医師会長だが、一斉に休むのは構わないが、個別に休むのは嫌らしい。

しかし、そもそも注射を医者しかすることができないなど、今や世界では非常識だ。インフルエンザの注射など、アメリカでは薬局でするものだし、ヨーロッパでも新型コロナを機会に解禁している。

注射など自分でもできるのだ。「筋肉注射だから簡単ではない」という医者もいたが、筋肉注射は皮下注射より単純で簡単だ。

副反応が出たらどうするといっても、副反応への対処はマニュアル化できるものだし、重篤になったら開業医では手に負えないことが多いので、救急車を呼ぶしかなく同じことだ。イギリスでは薬剤師だけでなく、失業者を集めて研修させてワクチン接種に動員しているのである。