大学生だが自衛隊員であり公務員でもある
ただし、携帯を契約するときやカラオケ店、映画館などでは学割も適用されるため、そういうときは堂々と“大学生”として振る舞う。自衛隊員・公務員・大学生という肩書きを、時と場合によって使い分けることになるが、実感としては大学生という感覚が最も強くあるように思われる。
本来であれば、比較対象は諸外国の士官候補生たちであるべきだが、どうしても一般大学の学生と比べがちで、自由を謳歌する世間の大学生たちを羨む者が多い。
また公務員なので、一般の大学と異なり、学費はかからない。それどころか月額11万7000円(2019年12月現在)の学生手当が支給される。年2回のボーナスもある。朝昼晩のご飯は食堂で出され、制服も支給。寮費もいらなければ、校内に医務室があって薬も処方されるため、医療費もかからない。つまり、基本的に衣食住全てにお金がかからないのだ。
平日は外出が禁止されているため、お金を使う機会は極めて限られる。給料すべてを休日のみで使うことを考えると、それなりの手持ちとなる。特に1学年は私服外出が許されず、お酒も飲めないため、よっぽどの使いかたをしない限りはお金が足りなくなるという事態は起こらない。ただし「下の学年には奢る」という風潮が強いため、4学年ともなると“足が出る”月もある。
学生服は「学生はもちろん、一般的にも魅力的でスマートなものを」と模索した結果、旧海兵と学習院の制服をミックスしたものとなった。ちなみに、このとき「旧陸軍制服は魅力がない」と指摘されている。冬服の色は「花紺」といい、当時は同じメーカーでも同じ色の紺の服地を作り出すことが困難だったため、同じ色を指定するために新たに花紺という色を作り出したと言われている。
気になる防大学生の学力
2022年度の募集定員は推薦150人、総合選抜50人、一般280人の計480人で、うち女子は70人(文系20人、理系45人、総合選抜5人)と定員の約15%。私が在学していた2000年代後半には、女子の数はおよそ8%だったので、ほぼ倍増している計算だ。
学生の人数比に伴い、学力は文系女子が最も高く、理系男子が最も低いという傾向がある。文系は地方の旧帝大レベル、理系はMARCHレベルと言われている。
ただし、幹部候補生を育てる学校というのは、日本に1つしかないので、学力の幅はそれなりにある。そして一度入校してしまえば、あまり学力でどうこうということはない。
また、募集定員は定められているものの、合格者の多くが他の一般大に流れていくため、毎年かなりの数の合格者を出している。そのため、実際の入校者数は“期”によって人数のばらつきがある。私の入校時、一大隊の1学年女子は14人いたが、2学年の女子は7人しかいなかった。
防大は日本国籍を有しない者の入校が認められないが、世界各国の士官学校からの留学生の数は6%程度に及ぶ。ごくまれにあまり真面目ではない留学生もいるが、総じて彼・彼女らはエリートであり、日本人学生を差し置いて学科トップの成績を取る留学生も存在する。
授業は、普通の大学と同じような一般教養や英語、学部ごとの勉強が基本だ。そこに防衛学や統率、訓練といった防大ならではの授業が加わる。
防大を卒業すると曹長に任命され、陸海空それぞれの幹部候補生学校に進む。ここで初めて、それぞれの要員だけの教育が始まることになる。基本的に全員が幹部自衛官になることが前提なので、就職活動をすることはない。というより、してはならない。
毎年一定数は存在する、卒業後に任官しない学生(いわゆる「任官拒否」)も同様に就職活動をしてはならないため、民間への就職希望者はバレないようにこっそり探すか、卒業後に改めて職を探すことになる。
このような環境下で、全員が校内の寮に住み、4年間の学生生活を送る。それは間違っても「憧れのキャンパスライフ」とは言い難いものではあるが、そこには確かに泥臭い青春がある。この場所で得た経験は、良くも悪くも一生忘れられないものとなる。
※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。