友人からは「そもそも防大って何するところ?」

2017年に内閣府が実施した『自衛隊・防衛問題に関する世論調査』では「自衛隊に対してよい印象を持っている」と答えた人が9割弱に上る一方、「身近な人が自衛隊員になりたいと言ったら賛成するかどうか」という問いでは、賛成が6割強、反対が3割弱との結果になった。

自衛隊に対して良い印象を持っていることと、身近な人が自衛隊に行くことへの賛成とはイコールというわけではない。反対理由のトップは突出して「戦争などが起こったときは危険だから」だった。

実際、自衛隊のイラク派遣の折には、派遣される隊員とその帰りを待つ家族とでは、家族のほうがストレス値が高かったというデータが、防衛衛生学会で報告されている。当事者は自分で選んで飛び込んだが、周囲は渦巻く情報に翻弄されながら心配することしかできないことが、ストレス値を高めることは想像に難くない。

▲KC-130H輸送機 出典:PIXTA

ちなみに、同調査では「賛成する」と答えた割合は男性で、「反対する」と答えた割合は女性でそれぞれ高かった。母親が娘や息子の身を案ずるという気持ちは、現在、娘を持つ私にも理解できるところではある。

ただ、最初は心配していたという母親も、大抵は「進学後はすごく応援してくれた」という。「つらかったら、いつでも帰ってきていいからね」と言うのも、母親の役回りのようだ。

友人らの反応は、まず興味と心配、そのほか「そもそも防大って何するところ?」という反応が多かったという。多くの高校生にとって自衛隊は身近なものではなく、防大を選択肢にも入れていないのだから、その反応も仕方のないところではある。

私自身も「幕僚長を目指してや!」と言ってくる友人もいれば「本当に行きたくて行くんですか。無理してないですか」と聞いてくれた後輩もいた。進学後、2008年のリーマン・ショック時に就職を余儀なくされた地元の友人の中には「すでに自衛隊に進路が決まっている私が羨ましく映っていたようだ」と話す者もいた。

とはいえ、明確な反対の声もゼロではない。取材のなかでも「友達から『なんでそんなキツいところに行くの? 今からでも行くのやめて一緒にキャンパスライフを楽しもうよ』と言われた」と話す者もいた。

さらに「『そんなとこに行くんじゃない。右翼みたいになる。親もそんなところに行かせるために勉強させたんじゃないと思う』と反対されたし、家にも友達の親から『そんなところに入れたらいけません』という電話が何回もかかってきた」と話す者もいた。

「今は地元の自衛隊への感情も、ちょっとは良くなっている」とは言っていたが、これは2000年代後半の話だ。自衛隊への地域による感情差は明らかに存在する。

彼氏が“賛成してくれた”防大女子はゼロ

そして何より多かったのが「高校の教師からの反対」だ。全体的には「賛成してくれた」という意見のほうが多いものの、実に26%もの女子たちが、程度の差こそあれ教師から賛成を得られなかった経験を持つ。これは特筆すべき事項だろう。

▲陸上要員の訓練風景(戦闘訓練・突撃) [松田氏所有写真]

そのうち「体力のない自分を心配していた」「『進学』ではなく『就職』になることで、選択肢が狭まることを反対された」といった、本人の将来を心配するものが6割強。

残りは、自衛隊そのものへの不信が感じられる反対だ。

「推薦書を書いてくれなかった」「カトリックの高校だったから、シスターから『争いに加わらないでほしい』と言われた。『自衛隊は日本に必要な組織で誰かが担うべき役割だ』と反論したら『もしそうだとしても、あなたがやる必要はない』と返された」「私が自衛隊への道を進んだことで、それまで特別に仲のよかった師弟関係が崩れた」「『本当にお金の問題なら貸すから、防大だけはやめなさい』と教師2~3人から言われた。めちゃくちゃ反対された」と彼女たちは話す。

1982年に放送された人気ドラマ『3年B組金八先生』のスペシャル版では、自衛隊を志す生徒に対して、教師たちがこぞって批判や説得を繰り返す(結果、生徒は自衛隊を諦める)という場面があった。

80年代初めには、すでに世論調査において「自衛隊はあったほうがよい」とする回答が8割を超えていたが、それでもそういった描写が茶の間に流れた。「教え子を再び戦場に送らない」という、戦後に日教組が提唱したスローガンは、教育現場では未だに残っているようだ。

なお、進学当時に彼氏がいた場合には「賛成された」という声はついぞ上がらず、彼氏に「反対された」か「心配された」のどちらかだった。どれだけ時代が変わっても、この点はあまり変わらないのではないだろうか。

※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。