地球温暖化を防ぐため、脱炭素(カーボンニュートラル)でCO2を削減することが世界の常識のように語られていますが、果たしてそれは人類にとって、また、日本にとって正しいことなのでしょうか? このままCO2削減政策を政府の言うがままに進めてくと「日本のものづくり産業」が壊滅状態になることも危惧されています。それはつまり、私たちの仕事が無くなって、給与も下がって、国民全体が貧しくなる……ということを意味します。「日本が先進国ではなくなってもいいんですか?」ということです。

▲脱炭素と日本のものづくり産業の大問題を徹底討論!

今、注目される新産業「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)をテーマに、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、脱炭素と日本のものづくり産業の大問題を徹底討論!

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』 (ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

税収全体の15%を占める自動車関連産業

加藤康子(元内閣官房参与) 菅義偉総理(当時)が2020年10月の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラルの実現」を国家目標に掲げて以来、新聞紙面では毎日のように脱炭素が話題となっています。

日本政府は脱炭素実現の目玉として、自動車産業においては電動化を推進し、2030年代半ばにガソリン車の新車販売を廃止するという方針を打ち出しています。なかでも小泉進次郎環境大臣(当時)が「EV化の推進」について、何度も記者会見で触れていることを、皆さんはご存知でしょうか?

私はその発言について「生産現場やマーケットの実態も把握せず、雇用への甚大な影響も顧みず、ガソリン車廃止とか、EV化とか大丈夫ですか?」と違和感を覚えました。

ネットでのコメントを見る限り、私と同様の見解をお持ちの方が多数いらっしゃるようですが「世界の市場は全部EVになるのに、日本も全部電気自動車にして何がいけないの?」という意見もありましたので、ここで皆さんと一緒に世界の現状を的確に分析し、政治と産業との関係や、雇用の問題、クルマの未来と新しい時代のモビリティ社会について、考えていきたいと思います。

▲『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』より抜粋

今の日本は、世界経済の一翼を担っています。米国や中国には大きく水を開けられていますが、1億2,600万人の国民が、今、世界第3位のGDPを維持しています(図1)。しかし、経済の先行きには大変厳しいものがあります。

2020年の国内総生産でみると新型コロナで大きな影響を受けましたが、全体で537兆円となり、その20%以上を占めるのが製造業です(図2:2019年のデータ)。

製造業は国力そのものであり、国家安全保障の源です。屋台骨を支える製造業が弱くなれば国力は弱くなり、骨太になれば国は豊かになります。

未来の日本を考えたとき、新しい産業を生み出す力も大切ですが、次世代の日本人が豊かな暮らしを続けるためには、今ある力、これまで築いた工業力をいかに高めていけるかが、日本経済にとってまずは重要ではないでしょうか。

なかでも自動車産業は、部品・素材・販売・整備・物流・交通・金融とさまざまな面で、まさに日本経済を支えています。

自動車並びに輸送機器の出荷額は70兆円を超えています。自動車関連からの税収は約15兆円で、税収全体の15%を占めています。事実上、自動車経済が日本を支えていると言っても過言ではありません。

昨今メディアを通して「ガソリン車をなくすことこそ、脱炭素=カーボンニュートラル、CO2削減のために必要である」という論調がさかんに聞こえてきますが、これについて今のうちに徹底的に議論をしておかないと取り返しのつかないことになるのではないかと心配しています。

自動車は国民の足であり、生活の一部であり、暮らしに直結しておりますので、この問題については国民的議論を展開したいですね。

自動車産業がなくなったら、日本経済は弱体化し、日本人は豊かな暮らしを送ることができないことを理解したうえで、EV化のような議論は積み上げていかなければなりません。

おふたりはどのように思われますか?