クルマを見ると世相が見える

池田直渡(自動車経済評論家) 私は自動車でもいわゆる古いクルマ、クラシックカーみたいなところの業界にいたんですが、同時に産業としての自動車についてもすごく興味がありました。

クルマっていうのは出てくるたびに新しい技術が入っていたりするんですが、それはやっぱり世界の規制であるとか、技術のトレンドであるとか、経済情勢であるとか、いろんなことに起源を持って開発されているものなんですね。

ですから自動車を見ることは、イコールその背景にある社会の動きを見ること、とも言えるんです。

例えば、すごく新しい技術が入ったクルマでも、結果的に出来上がりの質が良くないケースも大いにあるんですよね。

そこはやはり〈乗って・走って・確かめる〉というように、考えられている計画から現物までを全て確認することを視野に収めて活動している……というのが一応、私の仕事の範疇でございます。

岡崎五朗(モータージャーナリスト) 私は雑誌やウェブで自動車にまつわる物書きをする傍ら、テレビ神奈川の『クルマでいこう!』という自動車の番組をやって14年目になります。あと、YouTubeでは池田さんと『全部クルマのハナシ』というチャンネルをやっています。ちなみに、これまで試乗したクルマはざっと4,000台です。

加藤 そんなに! 池田さんも?

池田 僕は“乗る仕事”もしますが、法規制や企業戦略が主で、それらにちゃんと対応したクルマか否かを乗って確認するという感じですね。

岡崎 池田さんはニュータイプなんですよ(笑)。従来のモータージャーナリスト、あるいは自動車評論家の仕事って、乗ってみて「良かった、悪かった」という性能評価がメインだったんです。

まぁ、バイヤーズガイドとしてはそこも大切なんですが、それだけじゃつまらないなと。クルマは数ある工業製品のなかで、最も社会や人々の生活に密着したものなので「クルマを見ると世相が見える」わけです。

アメリカを代表する高級車に「キャデラック」というブランドがあります。1960年代のキャデラックは、それはそれは豪華絢爛なクルマだったんですが、70年代に入ると徐々にその輝きを失っていった。

それが僕には、ベトナム戦争の泥沼化によって自信を失っていったアメリカの姿を映し出す鏡に見えたんです。

僕はクルマの専門家ですが、日本が元気にならなければ日本車も元気にならないわけで、日本の自動車産業と、日本全体が元気になるにはどうすればいいのかという、そこを軸にまずは話していきたいと思います。

小泉進次郎氏のEV推進発言を振り返ってみる 

▲小泉進次郎氏 出典:ウィキペディア

加藤 ところで、2020年12月30日の日本経済新聞の一面に、小泉環境大臣(当時)のインタビュー記事がドーンと載りました。これは私にとって衝撃でした。

特に「国際社会はガソリン車からEVへ」と小泉氏は明言されていらっしゃるところです。

それから、EVの補助金をこれまでの倍の80万円にしますとか、EVは動く蓄電池として位置づけ、最初はおそらく地域を限定するようですが、“脱炭素のドミノ”を日本中に起こすというようなことも仰っています

さらには、日米同盟のなかで脱炭素を広げたいがために、日米交渉のなかでも日本のガソリン車廃止、特に2035年には廃止していくということを協議するとお話しされています。

このへんについて、どう思われますか?

岡崎 でも、小泉氏はあれからずいぶん勉強されたんでしょうね。国連気候変動サミット(2019年9月22日)のときに「石炭発電をどうするんだ」って質問に対し、しばし黙ったあと「リデュース」(Reduce:減らす)と言いましてね。ポエマーにしてはずいぶん簡潔な答えだなぁと(笑)。

池田 “セクシー発言”があったときですね。

岡崎 そうです(笑)。僕としては、日本には世界最先端のクリーンな石炭発電技術があって、これをしばらくは石炭火力発電に頼らざるを得ない途上国に広めていくのが、現実的にはCO2を減らすことにつながるんだと、だから日本は化石賞(気候変動対策で後ろ向きな行動や、発言をした国に贈られる不名誉な賞)をもらうような国ではないんだって、日本代表の政治家として堂々と言ってほしかったんです。

まぁ、あのときは環境大臣就任直後だったので仕方ない、としましょう。

それで、あれからずいぶんエネルギーのこと、EVのことなどを勉強されたんだろうなと思います。ただ、残念ながらヒアリングする人を間違えたなと。

加藤 それはどういう意味ですか?

岡崎 2050年に向けて脱炭素を計画していくっていうのは、議論の余地はあるにせよ、まず是とします。ですが、そのためにどうするのかというところで、いきなり「全車EV化だ!」といっていることが、かなり突拍子もない話なんですね。

これも小泉進次郎さんの発言ですけども「2050年までに技術革新を生めばいいと勘違いしている人は間違いだ。いつ花開くかわからないイノベーションだけに頼るのではなく、今の技術と政策の強化で、できる限り取り組みを徹底していく」と。

つまり「いま持っている技術、あらゆる技術を総動員して、脱炭素に向けてみんなで頑張りましょう」っていうことを仰っていると思うので、まぁ納得するところです。

でも、クルマの話になると急に「EV!、EV!」になっちゃうんですよ(笑)。ここがかなり矛盾しています。


〇『EV推進の嘘 #01』[未来ネット / 旧林原チャンネル]

※『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』は、インターネット番組『EV推進の噓』(未来ネット)を元に、再編集を行ったものです(2021年1月〜6月配信。以降YouTubeで無料配信中)。