岐阜でナンバー1のチーム「ギャングイーグル」に入ることができた。これで誰にもビビらず鼻高々に生きていける……はずだったが、福田健悟を待ち受けていたのはチームの厳しいルールとしきたりだった――。

鼻の骨にヒビが入っていたが鼻高々だった!

家まで自転車を漕ぎながらも、興奮は未だ冷めやらぬ状態だった。ついに地元で最大のチームに入ることができた。まだ胸はドキドキしている。そして鼻はズキズキしていた。

「どうしたの!? それ!」

顔を見るなり母は言った。ギャングチームにやられたと知ったら、通報してしまうかもしれない。自分が入るチームを警察に売るわけにはいかない。歩いていたら、急に不良に絡まれて殴られたと嘘をついた。すぐに病院に行って、診断をしてもらうと、鼻の骨にはヒビが入っていた。

翌日。学校中に噂は広まっていた。しかも、話には少し尾ヒレがついていて、鼻の骨はヒビではなく、折れたことになっていた。みんなに心配をされたり、話題の中心になったりするのはうれしかった。羨望の眼差しで見ている者までいて、鼻の骨にはヒビが入っていたが、鼻高々だった。

次の土曜日は初めての集会。特に準備はない。唯一あるとすれば服だ。ギャングイーグルのチームカラーは赤。返り血が飛んだ場合に、カモフラージュになるから、という恐ろしい理由だ。赤色の服は普段そんなに着ない。買う金もない。親にギャングチームのユニフォームを買ってもらうのも、変な話だ。

1枚や2枚どこかにないだろうか――押し入れから出てきたのは、父の赤いTシャツ。ピチピチだ。さすがにこれを着ていくわけにいかない。試しに着てみたが、パッと見はギャングではなくゴルファー。このあとも、いろんな引き出しを開けたが、出てくるのは姉のニットや、祖母のちゃんちゃんこだった。家中の服を散乱させて、なんとかそれらしい服を見つけた。

来たる土曜日。時間どおりに言われた場所に行くと、赤色のズボンに白のタンクトップを着たイカツイ人が、閉店後の銀行の前でノートパソコンをいじっていた。間違いない。この人がリーダーだ。

「すいません。今日ここに来るように言われた福田です」

「おぉ、お前か。根性あるらしいな」

そんなふうに伝わっているのか。てっきり、嘘つきの弱虫という認定を受けていると思っていた。リーダーはパソコンをしまって、歩き出した。

途中でコンビニに寄って、出てくるのを待っていると、何やら紙を持っていた。再び歩き出して、ショッピングモールの横を通ったときに、ピタッと足が止まった。目線の先には水着を着たマネキンが立っている。柄は水玉と黒と白。

「どれがいい?」

なんだ、この状況は? 答えによっては、怒られるのか?

「水玉です」

「…だな」

謎の時間だった。緊張をほぐすために和ませようとしてくれたのだろうか。だとしても、他に方法はなかったのか。

まだ入ったばかりの俺まで殴られるの!?

そんな思いに駆られながら、歩くこと5分。到着したゲームセンターの前には、約50人の集団が溜まっていた。もれなく怖い人たちばかりだったが、今日からは仲間。リーダーに紹介をしてもらって挨拶をした。特に反応がないまま、再びリーダーは話し始めた。

「点呼をとるぞ! 1、2、3、4……」

並んでいる順番に番号を言っている。どうすればいいかわからなかったが、前の人が番号を言ったあとに、続けて番号を言った。周りの反応は、一応コイツも言うのか。そう思っているのが伝わった。

この間(ま)に耐えながら、次の行程に移るのを待っていると、今度はコンビニで印刷したであろう紙が配られた。そこには地名と、メンバーの名前と、電話番号が記載されている。パソコンを触っていたのは、名簿を作るためか。もちろん僕の名前はまだない。

「その場所で揉めたら、必ず近くの支部の人間に連絡するように」

なるほど。つまり、僕は岐南支部の人たちに連絡をすればいいということだ。他にも笠松支部、各務原支部と書いてあって、養老支部のところに「シャロン・ファービィー」と書いてあった。見渡しても外人さんは見当たらない。再び移動することになって、公園に向かっている道中に、後方から耳を打つ笑い声が聞こえてきた。

「ヒャーハッハッハッハ」

見るからに強そうな外国人。ひと目見てわかった。彼がシャロン・ファービィーだ。今までに見てきた不良とはレベルが違う。笑いながらライターで名簿を燃やしている。これがギャングイーグルなんだ。どおりで地元最強の名を欲しいままにするはず。他の面々を見ても、逆立ちしても勝てないことが安易にわかる。

公園に着いたあとは、座って待っているように言われて、指示どおりにしていた。なんだろう。胸騒ぎがする。これから起こることを、第六感が予期していたのか。リーダーより上の雰囲気を漂わせた人が、不意に現れた。

「なんで呼ばれたか、わかってるな?」

どうやら、何日か前にギャングイーグルは祭りに参加をして、他のチームと喧嘩になったらしい。そのときに話し合いで解決したことを怒られているようだ。

「話し合いで終わらせるのが、岐阜で1番のチームのやることか? それがわかんねーなら、俺が今から1人1人ブン殴ってわからせてやるよ」

ごもっともだ。話し合いで解決するなんて……ん? ちょっと待てよ。1人1人ブン殴る? もちろんだけど、僕は関係ない。大丈夫だよな? 殴る瞬間にハッとするに決まっている。あれ?

お前は見たことのない顔だな。よし。許してやる。

いや、可能性は低い。殴る前に冷静な判断をするとは思えない。これほどまでに理不尽な連帯責任が、世の中にあるだろうか。

「なぁ、どう思う? 啓介」

目線の先には、小学生の頃に一緒に遊んでいた小野啓介くんがいた。見た目の変化で気づかなかったが、名前と雰囲気で一致した。そういえば啓介くんは、ギャングイーグルに入っていたと聞いたことがある。

頼む。啓介くん。僕に気づいてくれ。僕だけでもいいから助けてくれ。この人間性が窺い知れる祈りは、奇跡的に叶うことになる。

「平和が1番」

場は水を打ったように静まり返っている。まさかの一言だった。「自分が聞き間違えをしたのではないか?」と思っていた者もいたと思う。でも、たしかに啓介くんは「平和が1番」と言った。さっきまで怒っていた先輩も、煮え湯を飲まされたような顔をしている。

「……じゃあ仕方ねぇか」

この人も見るからに只者ではない雰囲気だが、啓介くんの一言で状況は一変した。もう僕の知っている啓介くんではなさそうだ。なにはともあれ、鉄拳制裁は免れた。初日にして、今後の不安とワクワクを感じられる1日になった。