最近、ニュースで取り上げられることの多いDX(デジタルトランスフォーメーション)の話題。端的に言えば「ITを活用してもっと儲ける」という意味のDX。世界ではかなり進んでいる一方、日本ではなかなか浸透せず、後塵を拝している印象を受けます。しかし、そこには世界と日本の仕事に対する姿勢の違いが根底にあるようです。元国連職員で海外就業経験も豊富な谷本真由美氏に、その理由を聞きました。

※本記事は、谷本真由美:​著『世界のニュースを日本人は何も知らない3』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

DXという言葉自体、世界では一般的ではない

最近、日本では「デジタルトランスフォーメーション」(DX)というIT用語が流行っています。

経済産業省のDXを推進するための「DX推進ガイドライン」によれば、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

ひとことでいうと「ITを活用してもっと儲ける」という意味です。

日本ではなぜか、どこもかしこもDXですが、海外ではこのワードは一般的ではありません。コンサル会社とか、ごく一部のビジネス系メディアが使っているだけです。

かつての「IT化」と最近の課題が大きく異なるのは、技術面の激変と外部環境の変化です。技術に関してはAIの登場だけではなく、ビッグデータからソーシャルメディア、通信環境の向上、スマートフォンやタブレットの登場というように、ビジネスプロセスの大幅な見直しが必要なものが大量に登場しています。

外部環境の変化に関しては、市場の変化やグローバル化が大きく、さらに今回のコロナ禍による働き方改革やビジネスプロセスの見直しがあります。また日本に関しては、少子高齢化による労働力の減少、国内市場の縮小という他の先進国よりも厳しい条件が追加されます。

さて私が驚かされるのは、日本でいまさら「DXをやりましょう!」ということが話題になっている件です。ヨーロッパではそんな概念的な話はとっくの昔に終わっていて、今は何を実践し、より効率的に収益性を高めるかが課題になっています。

▲ヨーロッパではすでにDXの実践段階にある イメージ:PIXTA

カンファレンスでもメディアでも業界の集まりでも「DXをやりましょう!」なんて総論は話題にもならないし、語っている暇もありません。なにせ今はコロナ禍でどこもそんな余裕はなく、どうやってデジタル化を効率よく進めて組織を「潰さないようにするか」ということが中心です。

欧州のそのような状況は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2016年に発表した『2016 Industry Digitization Index』にもあらわれています。

欧州全体のデジタル化浸透度は12%で、もっとも高いのがイギリスの17%です。アメリカの18%には及びませんが、全体としては行政でもビジネスでも、かなりのデジタル化が進んでいます。