一般の「女子大生」とはまったく違う世界に飛び込んだ彼女たちの生活や苦悩、そして喜びを「防大女子」だった松田小牧氏が体験と取材を交えて語ります。防大生が心待ちにするのは「休日」。それが入学したばかりの1年生であれば尚更。しかし、私服や宿泊、飲酒の禁止など、さまざまなルールがあるようです。
1年生は制服外出だった“門限あり”の「休日」
防大生が心待ちにするもの、それが休日だ。1学年時は休日を心の支えに平日を乗り切るといってもなんら過言ではない。誰かが落ち込んでいると「まぁまぁ、休日においしいものでも食べに行こうや」と誰かが声をかけてくれる。
ただし、1学年時は休日でも私服で外出、宿泊や飲酒は許されない。制服の場合はある程度混んでいたら電車に座ってはいけない、自販機はダメ、買い食いもダメ、そして常に誰かから見られている。
防大のある横須賀中央では、みな慣れすぎて視線を感じることはあまりないが、横浜や東京寄りになると、ものすごく視線を集めることになる。特に女子ならなおさらだ。ちなみに、冬の制服は駅員に間違われて質問を受けることが多い。
それだけでなく、女子トイレに入ると一見男性に間違えられ、ぎょっとされることも珍しくない。なかには「ここ、女子トイレですよ?!」と声をかけられたという者まで存在する。
門限もあるので、1学年のうちは横須賀中央に留まることが多い。そして2学年になって横浜や東京に繰り出すのだ。ただし、上級生であっても門限が延びるわけではないので、東京にいると早々に帰り支度をしなくてはならない。
その理由から、4学年では「ギリギリまで飲んでいられる」と、また横須賀中央に回帰する現象が多く見られる。たいていは横須賀に行きつけの店があるはずだ。
横須賀は米軍基地もあり異国情緒も感じられる、とても面白い街だった。着校日前日に降り立った際には、駅前に外国人しかおらず仰天したが、今でも足を踏み入れると胸を鷲づかみにされるような気持ちに襲われる。
防大生の第二の故郷といっていい横須賀だが、2013年には転出超過が全国ワースト1位を記録。そんな話を聞くと切ない気持ちにもなる。
学生証があれば米軍基地に入れることができる
ちなみに、防大の学生証があれば米軍基地に入ることもできる。防大生が1人いれば知人を招き入れることもできるため、親や地元の友人を連れていったこともある。受付で、すっぴんで髪を結んでいる学生証を見せた際、髪をおろして化粧をしている私と見比べて「これは本当に君かい?」と言われたことも、なんともアメリカらしい。
基地の中は1つの街と化していて、マクドナルドや映画館もある。売店もふつうのスーパーくらい広い。「日本の中にアメリカがある」と驚いたものだ。
また、1学年時は上級生から「○○に行ってこい」と指示される、いわゆる「指令外出」が下されることもある。私自身はなかったが「ディズニーランドに行ってこい」と言われた同期に付き合って行ったことがある。もちろん制服でだ。私たちは夢の国を満喫したが、私たちの後ろに並んでいたチビっ子の夢を壊してはいないか、と少し不安にもなった。
ある男子は「山下公園で女の子に声をかけてこい」と言われたり「遠いところに行ってこい」という指令を受けて日帰りで沖縄に行ったりした者もいた。「沖縄で4時間遊べたわ!」とカラカラと笑うその男子は、そのおかげで上級生から目をかけられ、1週間、容儀点検免除になったという。